プーシキン美術館展-旅するフランス風景画


 東京都美術館でやっている「プーシキン美術館展-旅するフランス風景画」を観に行ってきた。連休中だが3時過ぎだったので割と空いていた。
 プーシキン美術館展は確か2013年にも行われていて、横浜美術館まで観に行った記憶がある。あの時の目玉はルノワールの「ジャンヌ・サマリー嬢」だったか。なんとなく肖像画中心だったように覚えているのだが、今回はフランス風景画をメインにしている。それにしても当時のロシアの金持ちがフランス近代絵画をずいぶんと買い漁ったものだと思う。本当に名作、名品が多数収蔵されているのだから。
 古典作品に比べて19世紀の新興勢力、印象派の作品を購入したのは、アメリカやロシアの新興財閥だったのではないかと。彼らの今風な言い方でいえば、爆買いにより印象派を扱った画廊は大儲けし、画家たちの生活も安定したということだ。前回のプーシキン展のときに知ったロシアコレクターの一人、シチューキンの名前を憶えていたが、彼はプーシキン美術館とは切っても切れないような存在のようだ。
 今回のプーシキン展の目玉はというと、まずはモネの「草上の昼食」。これの大型版もあったらしいが、出来に問題があったのか、モネはそれを分割してしまった。その一部がオルセー美術館にあり、六本木の国立新美術館で行われたオルセー美術館展でその断片を観たのはもう三年くらい前になる。

 その他ではやはりこれも目玉なのがアンリ・ルソーの「馬を襲うジャガー」。

 ジャガーに首を噛みつかれた馬がこちらを向いている。なぜか凄惨なイメージはない。総てが架空のジャングルの中での幻想的なシーンとして完結している。そして動的なダイナミズムが一切ない静止画然としている。
 プーシキン美術館にはアンリ・ルソーの絵はもう一枚「詩人に霊感を与えるミューズ」が収蔵されている。これは前回、横浜で観たがルソーの所謂素朴派と言われるような要素がつまったヘタウマ画だったように覚えている。これは君たちだよと言って見せられたモデルのアポリネールマリー・ローランサンはさぞよ驚いただろう。ローランサンは女性だから少しは怒ったのではないかと、まあかってな空想ではある。
 その他、モネも他に2点、代表的な「積みわら」と「睡蓮」がある。さらにドランやヴラマンクピカソなども展示されている。個人的には一番気に入ったのは実はセザンヌである。3点が陳列されていたが、そのうちの2点は例のサント=ヴィクトワール山のものだが、20年近くを隔てたその作品はもう画風が変わっている。
 
 1905-1906年、最晩年に制作されたこの「サント=ヴィクトワール山、レ・ローヴからの眺め」には、キュビズムを思わせるような趣がある。さらにその色使いは20世紀の新潮流としてキュビズムと比肩するフォーヴを思わせるものもあるがあるとも思った。実際、ヴラマンクやブラックは大いにセザンヌに影響を受けたのだと思う。

 最後にもう一枚。シスレーの「オシュデの庭、モンジュロン」。オシュデというのはモネのパトロンだった実業家で、シスレーも多分を絵を買ってもらったことがあったのだろう。ただし、この絵が描かれた頃には、オシュデはすでに破産している。なのでどことなくこの絵にはかって、この家での栄華を忍ばせるようなノスタルジックな雰囲気もないではないという気もしている。
 オシュデは破産後、家族をモネに預け出奔する。モネは自分の家族とオシュデの家族を抱えながら、貧困の中で悪戦苦闘する。その中で最愛の妻カミーユを病気で失う。その後十数年してから、モネはオシュデの妻アリスと再婚する。アリス・オシュデの連れ子たちは献身的にモネを支え、モネは彼らをモデルとして何度もキャンバスに描いている。
 話は脱線した。このシスレーの絵を観ていると、シスレーこそ印象派の申し子、代表ではないかと、そんなことを思うことがある。もっとも印象派の方向性、方法論に長けていたとさえ思わない分けでもない。