オーケストラ

http://orchestra.gaga.ne.jp/
評判の良い映画だということでTSUTAYAで借りてくる。コメディタッチの音楽映画だ。30年ぶりに集まったオーケストラのミュージシャンがリハーサル1回もなしにコンサートを行う。この設定だけでもう普通的にありえないでしょうということになる、リアリズム的にいえば。でもこの映画はある意味、現代の御伽噺なのである。そして主役はというと音楽そのものなのである。良い音楽が奏でられていれば、それで総てはOKということに尽きるのである。
どんな作家も映像関係者も実は音楽に対して密かなるコンプレックスを持っていると私なぞは思っている。なぜか良い音楽はすべてを語りつくすことができる。どんなに言葉を尽くしても、美しく圧倒的な映像を示しても、音楽の至福の時に勝ることはできない。わずか数分の曲がすべてを情動的に語り尽くしてしまうのである。
この「オーケストラ」という映画は、映画全編を通してそれを逆説的に証明してしまったような映画だ。ありえないお話、雑なストーリー展開、それらの総てをラストのチャイコフスキーのバイオリン協奏曲によって収斂させてしまうのだ。映画の中の人物たちもまたコンチェルトを演奏することによって、言葉ではけっして理解しあえなかった様々、諸々を情動とともに理解していくのである。音楽をうまく使った見事な演出なのかもしれない。まあ普通に音楽の美しさを最大限に活かしきったといえるだろう。
個人的にはこの映画嫌いではない。所々のユーモアあふれるエピソードもときに痛い部分もあるにはあるが、そこそこに楽しめる。ソ連時代の様々な弾圧にしろ、現代のロシアの混迷にしろ、ロシアやフランスのコミュニズムのときに喜劇的でさえある凋落ぶりとかも時代のスケッチとしてはそこそこに秀逸である。
そしてなによりも、ヒロイン、メラニー・ロランがいい。清楚にして理知に富んだ佇まい、そしてとにかく美人である。どこかで見たことがあるなと思い、記憶を辿ると、比較的最近観た映画「人生はビギナーズ」に出ていたっけ。あの時にもずいぶんとキレイな女優さんがでてきたものだと思ったが、この映画でも改めてそれを感じた。もういっぺんにファンになってしまった感じである。
この映画は、良い音楽と美人女優をメインにすえた映画である。そして音楽を美しく描き出し、主演女優を美しく撮りきった映画でもある。それだけで十分に成功したといえるだろう。他になにが必要か、それをいったら欲張り過ぎではないか。
この映画においてもう一つ感じたことは、西欧社会においてユダヤ人問題といものの深刻かつ根深さについてだ。