団信保険の調査が来る

8月のお盆前に団信保険の請求手続きをとっていた。6月退院だから遅れに遅れてやっと行ったというところだ。医師の診断書もあったのだですぐに請求することも可能だった。でも、どうせ駄目だろうと思いつつも、最後の糧みたいな部分もあり、結局モラトリアムのようにずるずるとしてしまったということなのだろう。
それでも身上書ではないが、妻の病状について、また家庭のことなどについての長い一文もしたためた。また医療センターから借りているCT、MRIのレントゲン写真を苦労してPCに取り込んでプリントアウトもした。スキャンとかいろいろ試したけど、けっこうな苦労だったな。そうした書類一式を揃えるのに時間がかかったという部分もあることにはあるのだ。
片麻痺での団信保険適用はまずないという。医師からもそんな話を伺っている。だから診断書送っても書類一枚で却下の裁定をもらう可能性が大きいと思っていた。だからこそ保険会社がそれなりに時間をかけて調べてもらえるような状況にもっていければとも思っていた。そのために診断書以外の文書やレントゲンなども揃えたほうがいいと思った。
そうして一ヶ月が経過して保険会社から連絡があり面談をしたいということでこの日になった。やってきたのは40代の女性の調査員だ。丁寧な対応をされていたと思う。こちらもことさらに妻の状態を悪く見せたり、いいつのるのも何かとも思い普通に対応した。そう、こういう調査はもう介護保険のことで何度も行っている部分もあるから。トイレや食事は自立しているかと問われれば、自立しているという答えになる。でも、そうした断片的な行動での自立と生活全般の自立とは違うということだけは強調した。
調査員も片麻痺での団信保険の適用はあまりないと話していた(あまりではなく、ほとんどまったくといっていいほど前例がないということだろう)。それに対しては、こちらとしてはよろしくとしか言えない。ただ、これだけは明確に言ってみた。
妻が病気になって、医療センターや国リハに通い、いろいろな患者さんも見てきた。そこで実感したことは、病気は同じ病気でも一つとして同じものはなく、患者の家庭環境を含めて、本当に病気は個々、人様々であるということだ。妻の片麻痺の原因である脳梗塞巣は、医師からの説明では右脳の三分の二にも及ぶ大きなものだ。国リハの医師は当初、妻のCT写真を見て、「こんな状態での転院は難しいのではないか」と言った。当初の治療計画では、これだけ梗塞巣が大きいのではと、歩行計画もなく起居動作中心のリハビリ訓練だった。
それが二ヶ月半のリハビリの後、医療センターでの頭蓋形成術の後、国リハに再転院してからは飛躍的に改善された。とにかく杖歩行である程度の移動も可能になった。でもそれ以上の改善はたぶん望み薄なのだ。杖歩行ができるとはいえ、妻の左足と左腕はただついているだけの棒である。歩行が可能なのは装具で固定されているからに他ならない。医師からすれば、当初難しいと思われた杖歩行がある程度できるようになったのだから、それで良かったじゃないかという気もあるだろう。あなたの奥さんの大きな脳梗塞で、ここまで良くなったんだから、他になにを望むだろう。医師の説明のはしはしにはそんな医師の心根が感じられた。そう、これ以上の機能回復は望めないということ。
ようは妻の梗塞巣が大きいこと。それによる片麻痺を所謂世間一般にいう片麻痺と同じように扱ってもらいたくないということだった。妻の左手、左足は機能全廃なのだ。団信保険が適用される、両上肢の切断、両下肢の切断、一上肢の切断及び一下肢の切断と同じではないかということだ。さらにいえば妻には片麻痺のほかに注意障害という高次脳機能障害もある。片麻痺というだけではなかなか適用が難しいかもしれないが、妻の個々の病状を十分考慮に入れて欲しいと調査員にはお願いした。さらにいえばこれだけ梗塞巣が大きいと、その部分が脳軟化症になる可能性も高いという話もした。
調査員は今後、医療センターや国リハでの主治医と面談していろいろ調べるとのことだった。まあこちらとしてはとにかく駄目もとのことである。書類審査だけではなく、時間と手間隙をかけていただけれるということに一抹の期待を寄せるだけのことだ。期待、それは言いすぎかもしれない。団信保険が適用されるということは、たぶん宝くじに当たるようなものなのだろうから。