年に数回伊豆への小旅行に行く。定宿の健保の施設が伊東にあるため、伊東にある池田20世紀美術館に行くことも多い。この雑記の記録をみると最初に訪れたのは2017年のことのようだ。それから多分、5回くらいは行っているだろうか。
一碧湖の近くの別荘が点在する高台にある。もともとは舗装材料の製造販売を行うニチレキの創業者池田英一氏の個人コレクションを元に設立された私設美術館。コレクションは20世紀の西洋美術が中心で、ルノワールの小品、シニャックの水彩からヴラマンク、キスリングなどからピカソ、ダリ、シャガール、レジェ、マティスなどの作品が展示されている。
こじんまりとした美術館ながら、落ち着いた雰囲気で、ゆったりとしたなかで展示作品を鑑賞できる。いつも行くのが比較的ウィークデイの午前中が多いので、あまりお客さんも多くない。時にちょっとこれは運営的に大丈夫かなと思ったりすることもあるくらい。展示室は1階と地階の二つのゾーンで1階は常設展示、地階は企画展示で日本の現代洋画作家の回顧展などが頻繁に開催されている。

常設展示
1階の常設展示コーナーはこんな雰囲気。





ルノワール

シニャック

キスリング

たぶんこの美術館のコレクションで一番気に入っている作品かもしれない。そして自分的にはモーズ・キスリングの代表作、最も重要な作品だと思っている。どこかアンニュイというか倦怠感というか、日々の生活に疲れたような女道化師の姿、表情には引き込まれるものがある。
この顔、表情である。


ダリ

ダリ、21歳のときの作品。キュビスムの受容ということになるのだが、恐るべき早熟な天才。ヴィーナスのモデルは当時ダリが憧れていた女性だとも。
ヴィーナスに対して顔のない水兵は、女性に振り向いてもらえないダリ自身が投影されているのだろうか。まあこれは適当な思いつきだけど。

企画展ー大津英敏展

地階の企画展は現代洋画家大津英敏の回顧展だ。
大津英敏はほとんど馴染みがない。というか現代の洋画家はほとんどが馴染みがない。ただ全体的にはとても画力のある人という印象。二人の少女をモデルにした「少女」シリーズ、長くフランスに暮らしたことでフランスの風景を描いた作品などが中心のようだ。
解説によるとバルテュスの影響もあるという。実の娘をモデルにして、バルテュスの影響というと、ちょっとばかりイヤな気分になるところもある。というのは個人的にはバルテュス作品にはロリコン趣味のような部分、少女をきわめてエロチックな視線によって描くような部分が自分には感じられる。
アートとポルノ(エロ)の線引きは難しいけれど、ギリギリのところで踏ん張るのがアートみたいな感覚がある。そのへんからするとバルテュスはなんとなくポルノみたいに思えたりもする。バルテュスは54歳の時に来日して20歳の日本人の少女を若妻とする。来日時は妻帯者だったとも。その来日時に後の若妻となる日本人の少女を描いたヌードなどは、どこからみてもポルノにしか見えない、そんな感じだった。
まあアートかポルノかどうかは、観るものの意識によるところもあるのだろう。だとすれば自分の美意識が邪なのかもしれない。とはいえどこかバルテスが描く少女たちには、なんとなくイヤな気分を感じるところがある。
そういえばバルテュスの代表作《夢見るテレーズ》を所有するメトロポリタン美術館から撤去することを求める署名が1万以上になったという記事があった。あれもたしか少女を性的なシンボルとして描くことへの抵抗感だったような。
1万人が署名。バルテュスの《夢見るテレーズ》は撤去されるべきか? メトロポリタン美術館は拒否|美術手帖
話は脱線してしまった。ええと大津英敏の回顧展だった。
大津英敏が描く少女たちには実はあまり性的なものは感じさせない。しいていえばこの作品には明らかにバルテュスの影響はあるかもしれない。安井賞を受賞した大津英敏の代表作らしいけれど。

少女の二面性とでもいうのだろうか。後方でソファに眠る少女の姿には明らかにバルテュスの影響があるかもしれない。








基本的に具象の人である。風景画は印象派的な雰囲気もある。そしてそうした風景の中でクローズアップされた人物が入り込む、そして宙に浮揚している。おそらくみんな大津の子どもたちなのだろう。
単なる子どもの成長の記録でもない。そしてどこか心に残る。
自分の娘たちの成長を描き続けた画家としては、精密描写で描き続けた藤井勉を思い出す。今はないサトエ記念21世紀美術館で多数展示されていた。絵の雰囲気はまったく異なるが、共通するのは子どもたちを描く画家の視線には、単なる父親の愛情、子どもの成長を見つめる優しい眼差しとは異なる、ある種の美意識だ。単なる家族の肖像のようなアットホームな親和性とは異なる部分。たぶんそこが芸術家の眼差しということになるのだろうか。
大津英敏、初めて知る名前だが、心にとめておきたい画家でもある。またどこかの美術館で出会うことがあるかもしれない。