これもずっと気になっていた映画。
映画公開時、新聞広告を見てちょっと観てみたいと思った。プロレスのフォン・エリック・ファミリーを描いた映画である。おまけに主演がザック・エフロン。
古いプロレスファンならエリック・ファミリーのことはみんな知っている。ケビン、デヴィッド、ケリー、マイクなどなど。そして次男デヴィッドが来日中にホテルで客死。三男ケリーはNWA世界チャンピオンになるが20日弱で防衛に失敗して転落。その後オートバイの事故で右足を切断。義足をつけてカムバックするが薬物依存症となりピストル自殺。さらに四男マイク、五男クリスがそれぞれ自殺を遂げ、5人のうち4人が自殺という呪われたファミリーといわれていた。
彼らエリック兄弟は1980年代に活躍し、日本では主に全日本プロレスを舞台にして、当時の日本のエースであるジャンボ鶴田や天竜らと戦った。
でも自分的にはエリックといえば父親のフリッツ・フォン・エリックである。クルーカットで細身、長身、そして不敵な笑みを浮かべてキックやパンチを連発するファイター。そして必殺技は握力120キロといわれた大きな手で相手のこめかみや腹を鷲掴みにするアイアン・クロー、ストマック・クロー。特にアイアン・クローは、おそらく爪を立てているためか、相手は締め付けられるだけでなく、こめかみから大流血する。なんとも強烈かつ異彩を放つ必殺技だった。
1960年代、東京放送で世界のプロレスというアメリカプロレスの番組が放映されていた。そこではルー・テーズやドン・レオ・ジョナサン、エドワード・カーペンティアといった強豪の雄姿が見ることができた。そこで初めて見たフリッツ・フォン・エリックは本当に恐ろし気なスタイルで、あっという間に相手をストマック・クローで仕留めた。アメリカには凄いレスラーがいるものだと、子どもながらに思ったものだった。
エリックはテキサス州ダラスを主戦場とするトップ・レスラー兼プロモーターだった。さらにビジネスマンとしても銀行、レストラン、ホテルなどに出資するなど成功を収めてもいた。
当時の成功したレスラーは、それぞれ地区ごとにプロモーターという興行主を兼業していた。日本でも有名なザ・シークはデトロイトで、ディック・ザ・ブルーザーはインディアナポリスでそれぞれプロモーターをしていた。
アメリカのプロレスは各地の興行主がプロレス団体をひきいて、地元のスターと、各地を巡業するレスラーとの抗争を売りにしていた。さらにそれぞれの団体には試合のシナリオを作るマッチ・メイカーがいる。そうしたローカルな興行団体の上部組織が、NWAとかAWAといった団体を形成して、トップスターの世界チャンピオンが各地を巡業してタイトル戦を行うということだったと記憶している。その興行団体のトップを、地元のスターが兼ねるということで、エリックはダラスのプロモーター兼トップ・レスラーだった。ちなみに同じテキサスでは、ドリー・ファンク・シニアがアマリロのプロモーター兼トップ・レスラーだった。
日本でいうと全日本プロレスのプロモーターがジャイアント馬場、新日本がアントニオ猪木みたいなことだっただろうか。
フリッツ・フォン・エリックはアメリカでも異彩を放つトップ・レスラーだった。とにかく他の人間には真似のできない握力120キロから繰り出すクロー技。たぶんこれに尽きる。さらにはヒールレスラーそのものの悪役面した風貌。そしてナチス・ギミックのフォン・エリックというリング・ネームなどなど。彼は来日しないまだ見ぬ強豪レスラーの中でもトップ3の一人だった。
そして初来日時には、ジャイアント馬場のインターナショナル・ヘビー級王座に挑戦する。エリックのクロー攻撃に苦悶する馬場、ついにアイアン・クローで大出血し一本を失う。しかし馬場はエリックの大きな手にチョップを浴びせ踏みつぶしでクローを封印し最後に勝利を収める。今となってはバカみたいなストーリーだが、小学生のプロレスファンをワクワクさせるものがそこにあった。いや~、懐かしい。
さてと映画の方である。エリック兄弟の中で唯一生き残る長男ケビンの視点から描かれる。ケビンは身体的には小柄で裸足で戦い、跳び技を得意にしている。今ならジュニア・クラスになるだろうか、裸足で跳び技得意という点でいえばエドワード・カーペンティアと同じスタイルだろうか。物語の最初、すでにレスラーとして活躍したケビンの視点で次々にレスラーデビューし、それぞれの物語の中で自滅していく兄弟たちが描かれる。そしてケビンは一家の呪われた宿命を強く意識し続ける。
兄弟たちはみんな父親を崇拝し、父親の言われるままに、スポーツはアメフトを中心に、バスケ、陸上などに励む。それらでプロになれないと判ると、これも父親に勧められるままにプロレスへの道を進む。そしてそれぞれが伸び悩み、アルコールや薬物摂取、暴力事件や事故、最後には自殺する者が四人も。
長男のケビンはその中で唯一生き残る。彼の望みは兄弟が仲良く一緒に暮らし行くことだけだと。そのためにみな住み慣れた実家に住み、父と同じプロレスの世界に身を投じる。地元ダラスでは兄弟はヒーローとしてもてはやされる。
でも兄弟それぞれには、本当にやりたいことはなかったのか。物語の中で四男マイクは、ハイスクールでバンドを組みギターを弾き歌を歌っている。なのにいつのまにかリングに立ち、リング上の事故で脳に障害を負ってしまう。父や兄弟の期待に応えることができないまま、薬物に依存し睡眠薬の過剰摂取で命を絶つ。
三男ケリーは高校で陸上競技のスターとなり、円盤投げでオリンピック候補となる。しかしアフガニスタンへのソ連の侵攻に抗議して、西側諸国がモスクワオリンピックにボイコットしたことにより、オリンピックへの道を閉ざされ、兄たちと同じプロレスへの道に入る。順調にスター候補としてのし上がり、一度はNWA世界王座を手にするもすぐに転落し、その後は様々な団体を渡り歩く。バイクの事故で片足を失うも、義足をつけてリングに上がる。幻肢痛に苦しみ、薬物依存症となり最後はピストル自殺を遂げる。
多分、この一家、フォン・エリック・ファミリーは、プロレスビジネスに成功した偉大な父と敬虔なクリスチャンである母親の影響のためか、家族という呪縛に縛られ過ぎていたのだろう。家族で一緒に暮らし、兄弟は仲良くふざけ合い、みな父親と同じレスリングの世界に身を投じる。話題は家族のこと、そして仕事も同じレスリングで日々の話題も共有している。
普通、どんなに仲の良い一家であっても、みな自立して家を出て自分の人生を歩む。フォン・エリック・ファミリーはそれができないまま、プロレスの世界で力尽き死んでいった。唯一の生き残りのケビンだけが、父フリッツと家族の呪縛から逃れることが出来た。レスラーとしてそこそこの成功、サイドビジネスも順調で家族にも恵まれ、現在も68歳で建材である。
主役は唯一の生き残りケビンを演じたザック・エフロン。『ハイスクール・ミュージカル』でアイドルとして成功した後も順調にキャリアを積んでいる。しかし前作ではシリアル・サイコキラーのテッド・バンディを熱演し、今回はボディビルで身体を鍛え上げ、ムキムキとなってプロレスラーに挑戦。いささか際物じみた役柄が続くが、そこそこにいい味を出している。二枚目ながら、どこか狂気じみたダークサイドをうまく表出できる、そんな役者に仕上がっている印象だ。
映画としては、かなり暗い家族劇でもある。プロレスについての予備知識がなくてもそこそこ面白く観ることができる。自分はというと、かってのプロレスファンとしてのノスタルジックな思いを重ね合わせて観た。たぶんそのへんがなければ、ちょっとシンドイ映画だったかもしれない。
