『ライトスタッフ』を観た

 

 昨日だったか、NHKのBSでやっていた映画『ライトスタッフ』を観た。

「ライトスタッフ オリジナル版」 | プレミアムシネマ | NHK

ライトスタッフ - Wikipedia

 もともとはトム・ウルフによるアメリカの宇宙開発計画を描いたノンフィクションを原作としている。ソ連との宇宙開発競争の中で、それまでパイロットの頂点といえばテストパイロットだったのが、じょじょに宇宙飛行士が取って代わっていく軌跡を描いている。

 当時、正しい資質をもち、どんな障害、苦境にあっても冷静さを失わずに航空機をコントロールするテストパイロットたち。その頂点に位置していたのは、カリフォルニアの砂漠の中にあるエドワーズ空軍基地で初めて音速の壁を超えたチャック・イェーガーだった。そして新たに宇宙飛行士として訓練を受けたパイロットはのちにマーキュリー7と名付けられたが、彼らは当初パイロットというよりも実験動物、チンパンジーと揶揄された。

 映画は、エドワーズ空軍基地でのイェーガーとマーキュリー7たちの訓練する姿を交互に描く。そして最初の弾道飛行、初めての地球上の周回飛行などを通じて、宇宙飛行士がテストパイロットを凌駕していく姿を描き出す。ラスト、イェーガーのテストパイロット飛行と、そこでの事故と奇跡的な生還するシーンで幕を閉じる。

 実験動物と揶揄されながらも次第にパイロットの頂点となっていく宇宙飛行士たち、それとは逆に空軍基地でのテストパイロットたちは、絶滅危惧種のごとくに滅びてゆく存在として描かれる。ある種の詩情をこめて描かれるチャック・イェーガーを演じるのは、劇作家でもあったサム・シャパード。彼の演技、キャラクター作りにより、チャック・イェーガーはカッコいい役柄だった。

 マーキュリー7の宇宙飛行士たちでは、デニス・クェイド、エド・ハリス等が出演している。総じて主役級の俳優よりも準主役クラス、脇を固める性格俳優クラスが出演している印象が強い。

 もともと原作の『ザ・ライト・スタッフ』を先に読んでいたこともあり、映画は劇場公開してすぐに観に行った記憶がある。当時、ニュージャーナリズムにはまっていて、トム・ウルフハルバースタムゲイ・タリーズなどの作品を読んでいた。客観性が求められるノンフィクションに、作者が当事者的に入り込み、登場人物たちの主観性を含めて描き出す。それこそ「見てきたかのように書く」、事実を再構成して小説のように描くという新た強いノンフィクションの手法だった。

 たぶん1979年あたりに、川本三郎の書評で紹介されて興味を覚えたのだと思う。ちょうど沢木耕太郎の『テロルの決算』が話題になっていた時期で、沢木もニュージャーナリズムを強く意識していた。

 学生時代に日本の私小説を集中して読んでいたこともあり、事実の再構成、物語の中にジャーナリストが入り込むという手法に、どこかノンフィクションの私小説版、新しいリアリズムみたいな感じを持ったのかもしれない。ニュージャーナリズムの傑作ともいわれるカポーティの『冷血』やノーマン・メイラーの『夜の軍隊』には、作者自身が登場人物の一人として描かれていた。

 でも実際のニュージャーナリズムは徹底した取材をもとに、登場人物の内面にまで入り込むという、あくまで客観性を担保にしたもので、少なくとも私小説的なものとはかけ離れていたかもしれない。逆に沢木耕太郎の『テロルの決算』は、どこか私小説的な要素が散見され、明治期に自然主義文学の受容が、作家の身辺雑記のごとくに矮小化されていく日本の私小説と同じものを感じさせたりもした。まあこのへんは22~3歳の稚拙な若造の印象ではあったかもしれない。

 映画の『ライトスタッフ』は当時的にはそういう思い入れ的に観た。当時的にも2時間40分と長く、間にインターミッションがあったが、それでも特にダレることなく観た記憶がある。以来、DVDも持っているし(二枚組だったか)、割と好きな映画の一つでもあった。とはいえ、今回は久々に観た印象をいえば、ちょっと長いかなと思った。まあリビングでコタツに入って半分横になってという、ほとんど弛緩しきった状態だったので、そう感じたのかもしれない。

 BS放映でも途中にインターミッションがあったし、やはり2時間半以上の長尺物は、お茶の間でリラックスして観るには、今一つ適していないかなと思ったりもした。まあダラダラと観る映画ではないな。それでもまあまあ面白く観れたし、42年前の映画としてもさほど古びた感じもなかった。

 この映画については、以前にも書いていたはずだが、検索してみると2017年にサム・シェパードが亡くなったときと、2020年にチャック・イェーガーが亡くなったときに、それぞれ感想めいたことを書いていた。

チャック・イェーガー死去 - トムジィの日常雑記

訃報二つ - トムジィの日常雑記

 

 ちなみにマーキュリー7、最初に宇宙飛行士として訓練を受け、初期の宇宙計画をになった7人のパイロットたちはというと、全員が鬼籍に入っていた。20世紀は同時代史というよりも、もはや歴史そのものなのかもしれない。

スコット・カーペンター           1925年5月1日 - 2013年10月10日

ゴードン・クーパー                1927年3月6日 - 2004年10月4日

ジョン・ハーシェル・グレン       1921年7月18日 - 2016年12月8日

ガス・グリソム                             1926年4月3日 - 1967年1月27日

ウォルター・シラー                      1923年3月12日 - 2007年5月3日

アラン・シェパード                      1923年11月18日 - 1998年7月21日

ドナルド・スレイトン                  1924年3月1日 – 1993年6月13日\