終わったばかりのドラマだが『じゃああんたが作ってみろよ』を妻が好きで、よく観ていた。自分は地上波ドラマは大河ドラマくらいしか観ないのだが、なんとなく横でつい観てしまう。最近のドラマに出てくる俳優さんは、ほとんどわからないのだが、このドラマのヒロインの夏帆だけはなんとなくわかる。男優のほうは、たしか竹内なんとか。まあいいか。
夏帆はけっこう前から知っている。『海街diary』の三女とか、『箱入り息子の恋』で主人公の目の不自由な見合い相手など。完璧な美人ではなく、どこか等身大のどこにでもいそうな女性、ちょっとナーバス、あるいはちょっとエキセントリックなキャラを上手に演じる女優という感じだろうか。
最近はどちらかというと、脇役に回ってちょっと不思議ちゃん的な雰囲気の女性を演じている。『ブラッシュアップライフ』、『架空OL日記』、『ホットスポット』などなど。その夏帆が『じゃああんたが作ってみろよ』では主演を演じている。主役級の人気女優さんなんだと、改めて思ったりもした。
昨晩だか、けっこう遅い時間にいつものようにネット配信番組をつらつら眺めていた。特に何を観るというのでなく、タイトルだけをだらだらと眺めるというのは、よくやること。昔は、レンタルビデオ屋の棚を何周もして時間をつぶすなんてことよくやっていた。結局、何も借りないで帰るんだけど。
Netflixの映画とかドラマのタイトルを眺め、次はAmazonプライムの方。すると夏帆の主演映画というのを見つけた。
夏帆と韓国の女優シム・ウンギョンが主演。シム・ウンギョンは『新聞記者』で主演した女優だったな。あの演技はなかなか見事だった。
ストーリー
30歳の自称売れっ子CMディレクター砂田は、日々仕事に明け暮れている。理解ある優しい夫もいて、傍目には満ち足りた日々を送っているようだが、口をひらけば悪態や毒づいてばかりで心は荒み切っている。同僚との不倫と朝帰りの日々。送ってくれる同僚の車の後部座席のチャイルドシートに小さく傷ついたりもする。
ある日、病気の祖母を見舞うため、砂田は大嫌いな故郷茨城に帰ることになる。ついて来るのは天真爛漫な友だちの清浦。
砂田の実家で待ち受けていたのは、愛想はいいが愚痴っぽく物忘れも激しい母親、骨董マニアでマイペースな父親、そして引きこもりがちでちょっと不気味な兄。
再開した家族の前では、都会で身に着けた仕事ができる女性という砂田の上っ面はまったく通用しない。
そしてかっては二人だけで暮らしたこともある祖母を病院に見舞う。砂田は祖母の爪をきってやる。たぶんもう寿命が尽きようとする祖母との切ない時間。
たった二日間の帰郷、そのあいだに砂田は身に着けていたものが次第剥がされ、自分がずっと背けていた本当の自分の顔が現れてくる。夕暮れに差し掛かる頃、一緒にいたはずの清浦との別れも迫っていた。
どストレートなストーリー。最初、これはちょっと最後まで観るのはシンドイかなと思ったりもした。多分、夏帆だけの映画だったら、息が詰まったかもしれない。
とっくに捨て去った故郷、家族との交流。そこには断絶がある。おそらく砂田は田舎的世界から抜け出すことだけに必死に生きてきたのかもしれない。東京と茨城、車で数時間という距離なのに、心象的にはとてつもなく遠い。
田舎で生きづらさを抱え、居場所のない砂田は、実は東京でも自分の居場所を見つけられないまま生きている。いつも世界に対して悪態をついている。彼女が唯一自分の場所でリラックスできるのは、友人清浦といる時間だけだ。
今回の帰郷も清浦が強引に誘ったからだった。そして砂田の実家で、砂田が居心地悪くしていても、清浦はまったく意に介さず、母親、父親と普通に話をしている。彼女はいつだって、天真爛漫でまったく裏がない。それがまた砂田の心の闇が浮き彫りにさせる。
二日間の短い帰郷。祖母を見舞った彼女の中にこれまでの故郷へのわだかまり、自分自身の様々なコンプレックス、そうしたささくれだった心情が、少しずつほぐされていく。そして東京に向かって車を走らせるなかで、いつのまにか友人清浦が消えている。
なんとなくこの展開は少しだけ読めたかなとは思う。きわめて皮相な理解でいえば、都会で壊れかけた女性が、故郷への短い滞在で再生されるかもしれない、そういう話なのだろうか。
この映画を観て、シャーリーズ・セロンの『タリーと私の秘密の時間』を思い出した。最近は、『マッドマックス』のフュリオサや、『オールドガード』のアンディなど、ハードなアクション女優のイメージが強いが、『タリー~』や『ダーク・プレイス』など、ちょっと闇落ち的な役柄も多い。もともと『モンスター』でシリアルキラーを演じた人だ。とりあえず『タリーと私の秘密の時間』的なオチということにしておこう。
夏帆は熱演だ。もともと演技力のある女優さんとは思っていた。そしてその斜め上をいくかのような演技を見せるのがシム・ウンギョンだ。いやシム・ウンギョンが夏帆を食うほどの怪演ということではない。夏帆の熱演に対して、どこか脱力的な感じで絡むシム・ウンギョンの存在感が凄すぎると、そんな感じがした。
2020年の高崎映画祭では、この二人が同格で最優秀主演女優賞を受賞している。こういう場合、どちらかが主演でもう一方は助演となることが多いのだが、ダブル受賞である。これは納得だ。そのくらいこの二人の演技は素晴らしかった。
2019年、すでに6年も前の映画のようだが、まったく知らずにいたが、世の中にはこういう秀作があるということを改めて知った感じ。いや、長生きはするものだ。
この映画の中で、実家で寛ぐ砂田と清浦の二人がテーブルの前にいる。そこに砂田の母親(南果歩)がパックのお茶をお盆に載せてやってくる。そして母親はソファにこしかけて砂田ととりとめのなく話し出す。会話は方言が聞きづらく、何を話しているのかもよくわからない。多分、それはそこにいる清浦も同じなのだろう。手持無沙汰にお茶を飲んだり、テーブルの何か干物だかお菓子だかを口にして、あまりのまずさに吐き出したり。
これをカメラを据えっぱなしで、ほぼワンカットで映し出す。夏帆と南果歩の会話よりも、その横にいるシム・ウンギョンの手持無沙汰な演技が笑える。実に見事。こういうワンシーン・ワンカットもあるのかと、ちょっと新鮮な思いもした。

監督は箱田優子は1982年生まれ、東京芸大出身の若手である。主にCM畑で活躍していて、この映画が第一回作品。その後、長編作品は作っていないようだが、もっと撮らせたい人だとは思った。
故郷が嫌い、そこで育った自分が嫌い。東京に出て仕事をして、新しい自分を形成したはずなのに。そしてなりたかった本当の自分は。
映画のラスト、エンディングロールの中で松崎ナオの「清く、ただしく」が流れる。たぶん良いチョイスなんだろうなとは思う。でも、自分だったらここはボブ・ディランかなと思ったりもした。『Tangled Up In Blue』、「ブルーにこんがらがって」あるいは「憂鬱にこんがらがって」。結局、そういうことじゃないかなと思ったりもした。
