
ミロ展の後で久々東京国立博物館(トーハク)にも寄った。
東美や西美の後にトーハクに寄るみたいな上野の美術館のハシゴみたいなことは以前にもやったことがある。今回は久しぶり。ただし体力的に落ちている部分もあるので、大型企画展だとけっこうしんどいかもしれない。美術館巡りも体力が必要。高齢者はガツガツといくのは難しいかもしれない。
去年だか一昨年だったか、京都で、キョーハク、京都京セラ、京近美と三軒回ったことがあったが、もうああいうのは無理かもしれないな。
トーハクで行われていたのは、特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」。
主催がトーハクとNHK、NHKプロモーションということで、現在放映中のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』とのタイアップ企画。展示は一章から三章までに分かれ、さらに附章として大河ドラマのセットを移設して、江戸の街並みや蔦屋の耕書堂の店先を再現している。
全体として蔦屋重三郎の出自であり、活躍した場でもある遊郭吉原色が薄められ、蔦屋の出版活動と江戸文化をフォーカスする内容のとなっている。多分これは去年開催された藝大美術館の大吉原展が、遊郭は人権侵害、女性の性搾取、虐待の場であるという批判に曝されたことの影響もあるのだろう。
しかしなぜ今、蔦屋重三郎なのかというと、そのへんが実はよく判らなかったりする。江戸の文化史研究というと、大吉原展にもかかわっていた元法政大学総長の田中裕優子などが思い浮かぶ。調べると今の蔦屋重三郎の歴史的価値を決定したのは、現在中央大学教授であり書籍文化史が専門の鈴木俊幸の研究によるものらしい。
この人の著書『蔦屋重三郎』(平凡社ライブラリー)が、現在の蔦屋の歴史的評価を意義付けしたとされているそうな。歴史学者がその研究によって、歴史的人物にスポットをあて、その評価に影響を与えることはよく知られている。たとえば江戸時代の悪政の象徴ともいうべき存在であり、汚職政治家とされていた田沼意次が実は開明的な人物であり、積極財政、貿易振興、蘭学などにも理解を示す人物であると再評価したのが辻善之助の『田沼時代』である。
一方その田沼の失脚後に寛政の改革を主導した松平定信は、当初は清新な政治家とされていたが、文化学問への弾圧など圧政を行ったともいわれていた。しかし最近は西洋の技術などの導入を進めた開明的人物として再評価する潮流もあるという。たしかイギリスの研究者であるタイモン・スクリーチの『定信お見通し: 寛政視覚改革の治世学』がそうした見方を示していると聞いた。
ある事象や人物を価値あるものとして歴史的事実、歴史的人物とするのは、事象や人物そのものではなく、それらにスポットライトをあて、時代の流れの中でどういう価値、意義をもたらしたかを評価する歴史家による。たしかそれは述べたのはE・H・カーだっただろうか。歴史的事実、歴史的人物を規定し評価するのは歴史家であるという。まさにそのとおりなのだろう。
今の蔦屋重三郎の評価、江戸文化を牽引した出版業者、出版プロデューサーという位置づけは、おそらく鈴木俊幸氏の評価によるところが大きいようだ。といってもそれは彼の書から引用されることが多いことなので感じるところだ。機会があったらその著にもう少し触れてみたいとは思っている。
さて今回の企画展、基本的にはトーハク所蔵のさまざま書物や浮世絵を蔦屋重三郎の足跡とからめてトレースするような内容となっている。そのなかで特に喜多川歌麿と東洲斎写楽という人気絵師の作品にスポットをあてている。ただしいくら大首絵など大判の作品が多いといっても、基本は浮世絵版画であり、全体として小ぶりの作品が多数展示されている。
さらに蔦屋が手掛けた吉原細見や戯作文学、黄表紙本などの展示は、みな小さなものばかりだ。それらと解説パネルが上下に設置されていたりするので、鑑賞者は展示物と解説を読む作業を繰り返すことになる。ウィークデイでさほど混んでいるという印象はないのだが、展示ショーケースの前の人はけっこう渋滞してなかなか進まない。ようするに情報量がえらく多い企画展ということだ。
一章、二章はそういう展示が多い。ようやく三章になると、歌麿や写楽の浮世絵の展示になり、テキスト情報が少なくなるので、渋滞が緩和される。このへんは展示企画を網羅的かつ、できるだけ情報量多く伝えたいという開催者側の意図もあり、難しいところだ。
実際、図録が凶器にもなるような重量、大きさを持っている。それだけ情報量が多いということ。芸大美術館の吉原展の図録も膨大な情報が網羅した凶器本だったが、たぶんそれに引けを取らないように思った。
自宅の書棚も図録類がかなりのスペースをとっているので、大物はなんとなく躊躇ってしまう。この企画展は前後期で展示も変わるので、出来ればもう一度行きたいとは思っている。なのでそのときに買ってしまうかもしれないが、今回はパスした。
付章の江戸の街並みなどの展示は、ちょっとしたアミューズメント感覚で、それまでの情報量の多いテキストなどにちょっと疲れたあとでは、リラックスできてそこそこ楽しめた。




大河ドラマのセットは蔦屋の耕書堂。


ドラマのパネル展示もあってこれはこれで楽しい。

そしてやっぱり小芝風花の色香にはたまらない魅力があるなと、俗っぽく思ったりもする。実はあまりよく知らないのだが普通に良い女優さんだとは思う。

ミロ展の後で3時頃に入ったこともあり、今回のトーハクは企画展の平成館のみ。平成館にはミニコーナーで新版画をやっていた。実際の版木なども展示してあったが、時間がなくほぼ素通りするような感じだった。見た限りでは川瀬巴水中心で小林清親はなかったような。
最後に常設展示の近代のコーナーは本当に通り過ぎるだけになって残念。この時点で5時3分前くらいだっただろうか。

