西洋美術館で開かれている「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」展を観てきた。
西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館|国立西洋美術館
【公式サイト】西洋絵画、どこから見るか?-ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館VS国立西洋美術館
サンディエゴ美術館と西洋美術館のコラボ企画により、両館所蔵の西洋絵画88点を組み合わせた企画展で、ルネサンスから19世紀にいたる作品、特にルネサンスから18世紀までの名品、いわゆるオールドマスターを中心にした企画展である。
まずサンディエゴというと、とりあえずカリフォルニアの都市であることは知っているけど、そこの美術館がどのくらいの規模かというと、百科事典的なコレクションで古代美術、西洋美術、アジア・アフリカ美術、さらに現代美術や写真などまで網羅されているという。
そもそもサンディエゴはなんとなくカリフォルニアの地方都市みたいなイメージだったが、実はアメリカで最大規模の州カリフォルニアにおいて、ロスアンジェルスに次ぐ第二の都市であり、人口約139万人はアメリカ全体でも第10位の大都市だったりする。
カリフォルニアというとロスの次はサンフランシスコというイメージがあるが、こちらは州内四番目の都市。一位ロス、二位サンディエゴで三位はサンノゼだとか。ちなみにサンノゼはシリコン・バレーがあることでも有名。
ということでサンディエゴはかなり大きな都市であり、アメリカ第10位の大都市の美術館と西洋美術館とのコラボということになるらしい。その西洋絵画コレクションではオールド・マスターの名品をそろえている。さらに地理的にメキシコに近接していることもあり、スペイン文化の受容が広がっている。収集作品でもスペインの画家、スルバラン、ジュゼッペ・リベラ、ムリーリョらの作品も多数ある。今回はそれらの多くが日本に来ている。
The San Diego Museum of Art - Wikipedia
SDMA | Collections - San Diego Museum of Art
今回の目玉はというと、小さな板絵(テンペラ画)ではあるが、ジョットとフラ・アンジェリコの真筆が来ている。さらにルネサンス、ヴェネツィア派のジョルジョーネやティントレットの肖像画、またバロック期スペインのボデゴン(厨房画)の傑作として、西洋美術史のテキストなどにも掲載されるファン・サンチェス・コターンの《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》も来日している。まずはこのへんが目玉といえるだろうか。
そしてサンディエゴ美術館の名品に比しても劣らない西洋美術館のコレクションもこれも見事。ふだん常設展で何気にスルーしがちな作品も、サンディエゴの名品と並列して展示されると、見事な作品ばかり。西洋美術館がオールド・マスターの宝庫であることを再認識させられる。
- ジョット(1267頃-1337)
- フラ・アンジェリコ(1395-1455)
- ルカ・シニョレッリ(1445-1523)
- ベルナルディーノ・ルイーニ(1482/83-1532)
- ヴェロネーゼ(1528-1588)
- ヒエロニムス・ボス(の工房)
- ジョルジョーネ(1476頃-1510)
- ティントレット(1519-1594)
- ファン・サンチェス・コターン(1560-1627)
- フランシスコ・デ・スルバラン(1598-1664)
- ムリーリョ(1617-82)
- ジュゼペ・デ・リベーラ(1591-1652)
- シモン・ヴーエ(1590-1649)
- エル・グレコ(1541-1614)
- マリー=カブリエル・カペ(1761-1818)
- マリー・ギュミーヌ・ブノワ(1768-1826)
- ウィリアム=アドルフ・ブーグロー(1825-1905)
- ホアキン・ソローリャ(1863-1923)
ジョット(1267頃-1337)
サンディエゴ美術館


ゴシック末からルネサンス初期に活躍したジョットは三次元的空間を二次元の中で表現した最初期の画家の一人だ。その立体的な表現、人物の感情面などを表出した画面は、その後のルネサンス絵画の先駆的存在といっていいかもしれない。
もちろん実際の作品を観に行くことなどかなわないが、大塚国際美術館で実寸の複製陶板によるスクロヴェーニ礼拝堂には何度も足を運んだ。あの独特のジョット・ブルーともいわれる青による天空の表現が忘れることはない。この小さな板絵にもその青の片鱗がうかがえる。
フラ・アンジェリコ(1395-1455)
サンディエゴ美術館
あの《受胎告知》のフラ・アンジェリコである。その真筆を目にする機会などなかなかない。ジョットとフラ・アンジェリコを観ることができるということで、この企画展に足を運ぶ意味はあるかもしれない。
ルカ・シニョレッリ(1445-1523)
ベルナルディーノ・ルイーニ(1482/83-1532)
サンディエゴ美術館


ルイーニは16世紀初頭のロンバルディ地方で活躍した画家。レオナルド・ダ・ヴィンチのフォロワーとして知られている。ダ・ヴィンチの追随者はレオナルデスキと呼ばれていたが、その筆頭格のようだ。それは構図や人物のポーズ、容貌におけるぼかしたようないわゆるスフマートの表現など一目瞭然だ。
ヴェロネーゼ(1528-1588)
サンディエゴ美術館
ティツィアーノ、ティントレットの影響を受け、彼らとともに16世紀ヴェネツィア絵画の三代巨匠の一人に数えられるパオロ・ヴェロネーゼは宗教画、物語画で有名。本作ではオイディウス『変身物語』で知られるアポロとニンフのダフネの悲恋の物語を主題としている。キューピットの矢でダフネに恋心を抱いたアポロがダフネを求めて追いかける。純愛を選んで逃げるダフネは月桂樹に変身する。いままさに変身しようとする瞬間を描いた作品。
西洋美術館
これは西洋美術館所蔵のヴェロネーゼ作品。保存状態も《アポロとダフネ》よりも良く、色彩も際立っている。この名品をいつも普通のように常設展で観ていることに改めてありがたい思いがする。
ヒエロニムス・ボス(の工房)
サンディエゴ美術館
あのヒエロニムス・ボス・・・・・・の工房の作品である。「キリスト捕縛」という主題では、西洋美術館にマンフレーディのものがある。カラヴァッジョに影響を受けたマンフレーディの作品は緊張感と劇的な効果のある画面構成だが、同じ主題でもボス(の工房)となるとだいぶん違う。全体にユーモラスで怪しげ、キリストにも聖的な雰囲気がない。時代的には少々不敬な感じもしないでもない。
ジョルジョーネ(1476頃-1510)
ヴェネツィア絵画の基礎を築いたジョヴァンニ・ペッリーニのもとで学んだ天才ジョルジョーネの真筆である。美術史のテキストなどでは、ペッリーニの様式にダ・ヴィンチのスフマートなどを取り入れ、独特の風景画、人物画を描いたという。ちなみにペッリーニの工房で学んだもう一人の天才がティッツィアーノ(1488年頃-1576)である。
ティントレット(1519-1594)
油彩/カンヴァス 西洋美術館
同じくヴェネツィア絵画の巨匠ティントレットはティッツィアーノの作品に学び、さらにミケランジェロにも関心を寄せ、マニエリスム的要素も取り入れたといわれている。とはいえヴェツィア絵画のベースである賦彩と筆触に優れており、老人の髭や若者の毛皮の表現などには感心すべきものがある。《ダヴィデを装う~》をいつも西洋美術館の常設展示で観るたびに、足をとめその表現に見とれることが多々ある。
ファン・サンチェス・コターン(1560-1627)
ボデゴンとは、酒屋(ボデガ)の軒下(ボデゴン)に由来する静物画や台所、食卓の情景を描いた風俗画で、「厨房画」とも呼ばれるスペイン独特の名称である。木製の台に置かれた陶器といった質素な表現から宗教的主題を組み合わせたものなどもあり、17世紀から18世紀にかけてスペインで流行し、応接室や食堂に飾られた。その第一人者がファン・サンチェス・コターンで、こうした作品を最初に描いた。ボデゴンといえばコターンであり、美術の教科書などでもたびたび目にする作品だが、実作を観る機会は嬉しい限りだ。
コターンはまた宗教画などの描いている。
サンディエゴ美術館
聖セバスティアヌスは、3世紀のディオクレティアヌス帝によるキリスト教徒迫害の中で殉教したとされている。だいたいが柱に縛り付けられて矢を射られた痛々しい姿で描かれる。一番印象的なのはマンテーニャのもので十数本の矢によってメタメタに射抜かれている。それに比べるとコターンのこの絵は小品で矢の数も少ない。
フランシスコ・デ・スルバラン(1598-1664)
サンディエゴ美術館
油彩/カンヴァス 西洋美術館
セビーリャ派のフランシスコ・デ・スルバランは「修道士像の画家」と呼ばれ、修道士や聖人の肖像画を多数描き、宗教的感情に強く訴える作品を残している。一方でボデゴンでも写実性と宗教的精神性をあわせもつ作品の名手でもあった。
センディエゴ美術館
ムリーリョ(1617-82)
サンディエゴ美術館
スルバランの後にセビーリャの画壇に君臨したのが、バルトロメ・エステバン・ムリーリョ。光と影を巧に描いた明暗法による宗教画から写実的な風俗画などで人気があった。この人の絵を最初に知ったのはたしかルーブル展かなにかで観た《乞食の少年》だっただろうか。
ジュゼペ・デ・リベーラ(1591-1652)
サンディエゴ美術館
油彩/カンヴァス サンディエゴ美術館
ジュゼペ・リベーラはバレンシア出身で、ローマでカラヴァッジョの影響を受け、ナポリで活躍した宮廷画家。当時、ナポリはスペインの王領だった。劇的で光と影の描写にすぐれている。特に《スザンヌ~》はカラヴァッジョ的な特徴が強くでている。
《スザンヌと長老たち》の主題は『旧約聖書ダニエル書』にある物語で、人妻であるスザンヌが自宅の水浴をしているところを、裁判官の老人たちが覗き見する。以前からスザンヌに邪な欲望を抱いていた老人たちは、スザンヌを襲い凌辱しようとする。スザンヌは必至に拒むと、老人たちは裁判官の地位を利用して、スザンヌを不倫の咎(とが)で告発した。しかし、「ダニエル書」の主人公ダニエルが、スザンヌの無実を証明し、逆に老人たちは死刑を宣告された。
どうでもいいことだが、ジュゼペはイタリア語読みだろうか。西洋美術史のテキストなのでは、しばしばフセペ・デ・リベーラと表記される。さらにウィキペディアではホセ・デ・リベーラとも。画家の表記は書籍、美術館などによってまちまち。イタリア読み、スペイン読みとか、まあそのへんでの研究者の拘りとかもあるのだろうが、ニワカの美術鑑賞者がときに混乱することもある。
シモン・ヴーエ(1590-1649)
油彩/カンヴァス サンディエゴ美術館
17世紀前半に活躍したフランスのシモン・ヴーエは、1614年にヴェネツィア経由でローマに赴き、カラヴァッジョやアニバーレ・カラッチなどのバロック美術を学んだ。1627年に帰国し、ルイ13世の首席画家として大規模な工房を統率して王室や教会の注文に応えて作品を量産した。彼を通じてカラヴァッジョ様式のバロック様式がフランスに伝播され、次世代の古典主義への橋渡しとなったとされている。
エル・グレコ(1541-1614)
サンディエゴ美術館
マリー=カブリエル・カペ(1761-1818)
西洋美術館を代表する人気作品。「あたしキレイでしょ」とばかりにドヤ顔する若き22歳の女流画家。今回の企画展では女流画家の作品として紹介されているのだが、ポスターやチラシでもメインで扱われている主役でもある。調べると2001年に購入されたものだとか。
マリー・ギュミーヌ・ブノワ(1768-1826)
サンディエゴ美術館
女流画家エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランに学び、その後はジャッ=ルイ・ダヴィッドの工房で学んだ。当時、ダヴィッドの工房では26名の女性画家が学んでいたという。
そもそも女流画家はきわめて少数で、王立アカデミーは1663年に女性にも門戸を開いたが、創設以来450名の会員が所属していたなかで女性はわずか15名だけだったという。そうしたなかで、ヴィジェ・ルブランはマリー・アントワネットの肖像画を描き、公私ともに親しくしていたが、フランス革命に際しては死刑になる寸前で逃亡したという記事をなにかで読んだことがある。
カペやブノアらの女流画家が輩出するのもフランス革命前後の時代の変化に呼応していたのかもしれない。
ウィリアム=アドルフ・ブーグロー(1825-1905)
なかなかに魅力的な絵だ。この作品は西洋美術館の《小川のほとり》と並列して展示してあったが、どこかこの作品の方が屋外で制作したような自然主義的な背景表現になっている。もっともブーグローはリアルな農民や羊飼いをモデルにすることなく、おそらく都会の少女に田舎の農夫の服装を着せて、アトリエで制作したのだろうと想像する。
ホアキン・ソローリャ(1863-1923)
サンディエゴ美術館
ニューヨークのパトロンであったアーチャー・M・ハティントンが寄贈したサンディエゴ美術館の最初の収蔵作品。ソローリャはスペイン印象派の代表的な画家の一人。
サンディエゴ美術館