八王子市夢美術館に来るのは三年ぶりのようだ。たしか2020年から2021年にかけて続けて三度訪れたのだけど、それきりになってしまっていた。車だと圏央道を使えば1時間弱なのだが。多分、食指が動くような企画展がなかったからだろうか。雑記の記録を確認すると、日動美術館のコレクション展に二度、あとは北斎展に行ったことになっている。
今回の企画展は「ルーヴル美術館の銅版画展」だという。「世界最高峰 美の殿堂『ルーヴル美術館』コレクションによる銅版画(カルコグラフィー)日本公開!」とうたっている。銅版画というと細密精巧ながらもどこか複製画というイメージが強い。比較的小品が多いこともあって、どこか敬遠がちなところもある。
とはいえ日ごろから、浮世絵版画はわりとよく観に行くのだから、銅版画を軽んじるのもなんなんだろうと思うところもないでもない。でも西洋美術館でよく一室を使った銅版画展などは観るには観るけど、なんとなく流すような感じもある。今回もなんとなくだけど、「銅版画か、まあルーヴルだし」みたいな軽い気持ちで出かけた。
そもそもカルコグラフィーって何か、銅版画とそのコレクション、そして原版の保存と印刷を行う場所を意味する。もともとはギリシャ語で「銅(カルコス)に描いたもの」という意味に由来している。
ルーヴル美術館のカルコグラフィーは、ルイ14世の時代に王宮の建築物、芸術作品、植物図鑑などの学術研究を銅版画で記録することから始まり、写真技術誕生以前の複製・複写という銅版画の技術が奨励されてた。
王政が終わると、「王の版画原版収集室」、「王立絵画彫刻アカデミー」のコレクションが統合されて、1979年にカルコグラフィー室(国立カルコグラフィー室)が誕生し、版画技術の保存、ルーヴルの名画の版画化という役割を担ってきている。現在ではルーブル美術館のデッサンや版画などを扱うグラフィック・アート部門であり、銅版画コレクションは約13,000点にのぼる。
今回はそのコレクションの中から、西洋絵画の名品の複製銅版画、ボタニカルアートなどから、当時の版を使って刷られた銅版画100点余りが紹介されている。
いわば銅版画によるルーヴル・コレクションであり、またそれは同時にルネサンス期から20世紀初頭までの西洋絵画史を巡るような企画展となっている。
正直、一巡していくにつれ、まさに西洋絵画の流れを名品の複製銅版画によって知ることができる貴重な体験でもある。また現地にいかなくては観ることができない名画・名品の片鱗に触れることができる。銅版画侮るべからずみたいな感じでもある。正直、これは来た甲斐があったし、勉強になる。
銅版画という性格上、名画の色使いなどを知ることはできないのはもちろんである。でもデッサンや構図などの奥深さを知ることができる。そして精密に描かれた(彫られた)銅版画の見事さも間近に接することも可能。今回の企画展では、拡大鏡が貸し出されていて、入り口に用意された拡大鏡を手に取り、その超絶的な細密性を確認することもできる。
展示室の最後に八王子市に住んでいた画家、版画家の作品が数点展示してあった。その中で清原啓子の版画家の作品があった。1955年生で1987年に31歳で急逝した版画家だという。その作品の独特な雰囲気、一種のおどろおどろしさ、なんとも後引く。この人、まさに天才だとは思うが、生きていたら69歳。自分より一つ上だけど、とても長生きしそうにない、なんていうんだろう行き急ぎ感が半端ない感じ。同世代にこういう天才がいたことに驚く。この作品は原版も展示してあったが、その細密性はちょっと言葉にならない感じだった。