秋を実感する (10月8日)

 群馬県立近代美術館があるのは群馬の森という公園の中。美術館と博物館が隣り合わせなっている。

園内マップ – 群馬の森 (2022年10月11日閲覧)

 いつも美術館を閉館と同時に出た後は、この公園内を散策する。妻の車椅子を押して園内を一周することもあるし、妻が一人で車椅子自走して、自分はしばしベンチで休憩なんてこともある。

 この日も5時の美術館閉館と同時に公園内を回ろうとすると、駐車場の締め切りは5時半というアナウンスが流れる。秋の日はつるべ落としではないが、時期に暗くなる。夏場は公園の駐車場は確か6時半まで開いていたはずだが、もう冬仕様になっているということか。

 「早いな、ぶらぶらするのも30分しか時間がない」と妻に告げると、ちょっとだけと言って車椅子で自走し始める。仕方なくすぐに後を追うつもりでいたのだが、妻はどんどんと遠くに移動していく。

 ふと空を見上げると夕日はもうほとんど沈んでいる。

 「秋だなあ」と小さく呟く。

 少し離れたところで女の子の泣く声がする。振り返ると、今しがた父親と二人で補助輪付き自転車をこいで通り過ぎた女の子のようだ。遠目に見ていると、どうも自転車で転倒した様子。

 近くに寄っていくと、4~5歳くらいの女の子は起き上がっているがまだベソかいている。それでも父親に促されてもう一度自転車に乗ろうとしている。女の子の横を通り過ぎてから振り向いてみる。女の子は懸命に自転車を漕ごうとしている。

 ちょっと健気に感じて、「ファイト」と声かけるがきょとんとしている。父親が「騒がせてすみません」と頭を下げる。こちらは「い~え」と返事を返して、もう一度今度は「頑張れ」と声をかけると、女の子はこくんとうなずく。父親が「ありがとうございます」と答える。女の子と父親に手を振ってその場を離れた。

 そのまま妻が向かったのとは反対側から歩いて行く。多分、途中で落ち合えるはずと考えた。途中、園内の遊歩道にはけっこうどんぐりが落ちている。3~4個拾ってみる。幾つになっても子どもじみたことしている。拾ったどんぐりをベンチに置いてみる。秋の感興。さして面白くもない。後で妻に見せるつもりでポケットに入れる。

 園内を半周しても妻が見つからない。少し速足で戻り、少し行くと妻がやや登りの遊歩道を一生懸命に車椅子をこいでいる。すぐに追いついて押しながら駐車場に戻るようにする。時計をみると5時25分くらいでまもなく閉園の時刻だ。

 妻は公園の一番奥の方にある池まで行って戻るつもりだったようだが、途中で引き返してきたみたいで「池まで行けなかった」と言った。速足で車椅子を押しながら、ポケットに入っていたどんぐりを妻に渡す。妻はちょっとだけどんぐりを見ていたが、「どうする」と聞いてきたので、「捨てていいよ」と答える。それから車椅子を大きな木の近くに寄せ、妻がパッっと木の近くにどんぐりを放った。

 駐車場に着くとほぼ5時半になっていた。止まっている車は自分のを含めて5~6台。みな帰り支度である。車のエンジンをかけるとオートライトでヘッドライトが点灯する。秋を実感する夕暮れ時だ。