西洋美術館常設展

 トーハクのあとすぐに西洋美術館の常設展に向かった。

 最近、勉強している西洋美術史の確認をしたかったのが理由。ちょうど盛期ルネサンスを齧り始め、ティツィアーノやティントレットの作品で確認をしたかったため。しかし、西洋美術史の本とかを読んでいて、その気になれば作例をすぐに観に行けるというのもすごいことだと思う。

「洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ
(テイツィアーノ・ヴェチェッリオと工房)1560-70年頃 

 ヴェネツィアルネサンスの巨匠ティツィアーノとその工房の作品。当時、ミケランジェロの死後、ほぼイタリア絵画の第一人者となったティツィアーノは注文が殺到したため、大規模な工房により制作をシステム化し、最後にティツィアーノ本人が手を入れる形だったという。図録によればX写真などからもサロメの右腕、後ろの侍女などにティツィアーノの手が入っていることが推測されているという。

 ツィツィアーノは彩色や筆触に工夫を加え、ミケランジェロが主導した輪郭線やディセーニョ(素描)を重視した技法とは異なり、筆触や厚塗り、絵具のこすれや指による押さえなどを多用した技法を追求したという。

 さらに図録解説から引用すると、この作品はかってイギリス国王チャールズ1世のコレクションで、彼が清教徒革命で処刑されると、クロムウェルの指示で国民評議会の装飾で利用されたのだという。クロムウェルは絵の主題を旧約聖書のヒロインで敵将ホロフェルネスの首を切ったユディトと勘違いしていて、チャールズ1世を斬首した自分と重ね合わせていたのだとか。絵には歴史ありというところだろうか。

 しかしサロメにしろ、ユディトにしろファム・ファタル(運命の女)なんだろうが、ティツィアーノサロメはそういう雰囲気がない。以前にも書いたような気がするが、この二の腕はなにか肝っ玉的でとうてい運命の女風ではないような気がする。

 

ダヴィデを装った若い男の肖像」(ティントレット) 1555-60年頃

 ティントレットはヴェネツィア絵画におけるツィツィアーノの継承者といえる存在で、彩色やツィツィアーノのマチエールを発展させ、さらに構図や劇的描写に工夫を凝らした。

 この絵でも外套の描写などには筆致の工夫がある。

 ティントレットは10代の頃にツィツィアーノの工房に弟子入りするも数日で追い出されたという話がある。さらにいうとその理由が絵が上手過ぎたからとも。本当かどうか知らないが。

 

 その他気になった作品

「聖カタリナの神秘の結婚」(パオロ・ヴェロネーゼ) 1547年頃

 この作品は以前にも気にいた作品として取りあげたことがある。ヴェロネーゼ(1528-88)も最近読んだ教科書の中で「レヴィ家の饗宴」が取り上げられていた。彼はヴェネツィアに近いヴェローナの出身。ティツィアーノやティントレットからヴェネツィア絵画の影響を受け、パルミジャニーノやジュリオ・ロマーノからマニエリスムの影響を受けた。彼の作品は明るい色彩が生み出す華やかな雰囲気に包まれていて、祝祭的な表現として知られている。

 ちなみに上述した「レヴィ家の饗宴」はもともと「最後の晩餐」を意図して描いたものだが、主題とは関係のない世俗的モチーフが多用されていたため、不敬とみなされてヴェロネーゼは異端審問所に呼び出されたという。時代的にはルネサンスの自由な雰囲気から、対抗宗教改革による厳格な風潮に移り変わる時期だったことによるのだとか。

 この「聖カタリナの神秘の結婚」も鮮やかな色彩が印象的だが、宗教画としての重厚感はないように思う。