山下達郎~Softly

 友人が誕生日のプレゼントにくれた。持つべきものは友である。

 山下達郎の11年ぶりの新譜である。ベスト盤とかではなく、69歳にして現役かつ第一線で活躍する彼の新譜である。とはいえ収録15曲のうちこのアルバムのために書き下ろされた新曲は、「LOVE’S ON FIRE」、「人力飛行機」、「YOU(ユー)」の3曲。あとはすでにシングルとして発売されたり、ドラマや映画の主題歌、CM等で発表されたものの収録である。もちろんそれらはすべて発表時そのままではなくリミックスされている。さらに初回特典として2021年12月3日にレギュラー番組『サンデー・ソングブック』の放送1500回記念として行われたアコースティック・ライブから7曲収録されている。

 通して聴いた感想は一言でいえば、2022年という年に山下達郎の新譜に接することがある種の僥倖に思えるという感じだろうか。そして聴いていると自然と彼のキャリアに対するなんとなくなオマージュを覚える。そんな気分だ。

 山下達郎は1953年生まれの69歳。自分とは3つ違いだ。彼のことはシュガーベイブ時代から聴いている。深夜放送などでよく流れてきた。林美雄や馬場こずえのパック・イン・ミュージックあたりで時々かかっていたような気がする。林美雄はとっくに鬼籍に入ってしまったけど、馬場こずえはいまどうしているのだろう。

 それ以来、達郎はほぼ同時代的に聴いてきた。レコードが出るたびに必ず買うということこはなかったけど、だいたいは聴いていたような気がする。当時はレンタル・レコード店なんていうのもあった。ヒットした「Ride on time」はシングル盤を持っていたような気がする。記憶を辿ると新卒でローンで高いオーディオを買ったときに、とりあえずシングル盤で達郎の曲を聴いたような記憶がある。あのオーディオはデンオン(まだDEONとはいってなかった)だったか。80年代初頭に20万以上したような記憶も。

 本格的にCDを買い出したのはライブ盤「JOY」(1989年)が出たあたりだったか。そのへんからそれまでのアルバムをCDで集め出した。

 基本的に洋楽指向で、ポップスやロックはビートルズ、ウェストコーストのCSN&Y、サザン・ロックなんかをメインに聴いてきた。あとはジャズをハードバップ中心に。そういう意味じゃ日本のポップスでまともに聴いてたのは達郎とユーミンくらいだろうか。ユーミンはとっくに卒業しちゃったけど、達郎だけは延々聴き続けている。

 2013年に一度だけ達郎のライブに行ったことがある。それまでも「JOY」を聴いてたので、達郎のライブのクオリティの高さは知っていたけど、実際に聴いてみると本当にレベルが高かった。そして時間もゆうに3時間を超える。ちょうどその頃に、ポール・マッカートニーが久々来日公演して、5人だけの演奏で2時間以上の長丁場を聴かせるパフォーマンスに感動したものだが、演奏の質という意味では山下達郎ははるか上だったかもしれない。まあこのへんは比較的小ぶりなホールと東京ドームの違いというのもある。

 とにかく山下達郎とそのグループの演奏のクオリティの高さは、日本のポップス、ロックシーンにあってはちょっと比類なき存在みたいな感じだった。あれはまあいってしまえば、第一線のジャズ・ミュージシャンのパフォーマンスみたいな職人気質的なところじゃないかと思う。

 そうやって長年聴いてきたうえで改めて聴く今回のアルバム。打ち込み系が多く、バックバンドの演奏によるものは4~5曲くらいだったか。人によっては打ち込みよりもバンドとやったものの方がいいという意見もあるようだが、自分的には断然打ち込み系の方が気に入っている。それは達郎がトータル・サウンド・クリエイターであることの証だと思っている。思えば達郎はごくごく初期の頃から打ち込みやっているはずだ。80年代のどこかのアルバムにPC-9801なんて文字があったのをなんとなく覚えている。

 打ち込みは山下達郎の職人的な音作りがもっとも発揮できるのではないかと思ったりもする。もっともそれをバンドにアレンジしてきちんとライブでやるところも凄いところだ。

 基本ミーハーなので昔からの山下達郎的なサウンドが好きである。なので今回のアルバムでも例えば5曲目「 CHEER UP! THE SUMMER」、「光と君へのレクイエム」なんかが気に入っている。特に「光と君へのレクイエム」、2013年公開の「陽だまりの彼女」の主題歌らしいのだが、ちょっと油断していると目頭が熱くなるようなそんなキラー・チューンだ。多分、愛する人を失ってしまった残された者の思いを歌ったものだ。

 この歌はなんていうんだろう、自分らとかもうちょい上、あるいは後期高齢者に入ろうとするような人には切実なテーマかもしれないと思ったりもする。少しずつ交流のあった者が一人、また一人と亡くなっていく。喪失感と逝ってしまった人々への鎮魂。そんなことを思うのは、多分自分が老齢期に入っているからなんだろうな。

 何度でも書くけど、2022年の今、山下達郎の新譜をこうやって聴くことができるのは一種の僥倖だと思う。まだ我々の世代には、山下達郎がいる。

<収録曲>

01. フェニックス [2021 Version] ~NHK「未来へ17アクション」テーマソング~
02. LOVE'S ON FIRE
03. ミライのテーマ ~映画「未来のミライ」オープニングテーマ~
04. RECIPE (レシピ) ~TBS日曜劇場「グランメゾン東京」主題歌~
05. CHEER UP! THE SUMMER ~フジテレビ系ドラマ「営業部長 吉良奈津子」主題歌~
06. 人力飛行機
07. うたのきしゃ ~映画「未来のミライ」エンディングテーマ~
08. SHINING FROM THE INSIDE ~エステティックTBCTV-CMソング~
09. LEHUA, MY LOVE ~「JAL HAWAII Style yourself」篇CMソング~
10. OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)
11. コンポジション ~NHKドラマ10「第二楽章」主題歌~
12. YOU (ユー)
13. ANGEL OF THE LIGHT ~Nikon企業CM曲~
14. 光と君へのレクイエム ~映画「陽だまりの彼女」主題歌~
15. REBORN (リボーン) ~映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」主題歌~

「The Latest Acoustic Live」
~Recorded Live, 2021/12/03 at Tokyo FM Hall, Tokyo~
01. ターナーの汽罐車
02. ポケット・ミュージック
03. あまく危険な香り
04. PAPER DOLL
05. パレード
06. BELLA NOTTE
07. HAVE YOURSELF A MERRY LITTLE CHRISTMAS