4月9日にリニューアルオープンした西洋美術館に行って来た。
2020年10月に長期休館に入ってから約1年半ぶりの再館である。その間、年に5~6回は訪れている自分のような者にとっては、ある種の西美ロスを感じていただけに、ようやくの思いもあった。
西洋美術館館長田中正之氏のメッセージによると、長期休館の間、主に地下展示室部分の空調、防水工事を行い、さらに前庭部分をル・コルビュジェの当初設計した姿に復元したということらしい。
【館長メッセージ】2022年4月9日 国立西洋美術館リニューアルオープン - YouTube
確かに前庭部分は変わったが、それ以外は特に何か変わったということもない。リニューアルオープンだからといって、大型の企画展をもってくるということもなく、常設展、館所蔵の版画コレクション展、現代絵画の間での大成建設コレクションによるル・コルビュジェのミニ企画展程度である。まさに松方コレクションを中心とした膨大な所蔵品があればこそということだ。
展示内容は、これまでの年代順、様式順に展示をベースにしつつ、そこにある種のテーマ性を加味しているようだ。展示作品には新収蔵品の他、ある種蔵出し品のようなものもあり、ここ5年はくらいは年に5~6回訪れている自分などにも初めて目にする作品が多数あった。
以下、気になった作品をいくつか。
初めて観る作品である。ホーファールト・フリンクは17世紀オランダの画家で確かレンブラントの助手を務めていた人である。東京富士美術館に「犬を抱く少女」という名品があり、それで記憶している。また最近、東京都美術館で開かれていた「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」にも1点作品があったように覚えている。
ヴァザーリという名前にひっかかるものがあったが、この人はルネサンス期の芸術家の伝記をまとめた「芸術家列伝」の著者である。自ら画家・彫刻家であったが、先人、同時代人の芸術家を研究するために伝記をまとめたのだろうか。「芸術家列伝」は確か白水社から出ていたと思う。いつかまとめて読みたいと思っているのだが果たせていない。
中央にいるのは幼児を抱く聖母マリアとひざまずく聖カタリナ。背後いるのはマリアの夫聖ヨゼフ。左下には洗礼者ヨハネが幼児の姿で描かれ、幼児がもたれているのは将来のキリスト受難を暗示する仔羊がいるのだという。
聖カタリナは高貴な家柄に生まれたが、キリスト教を信仰するようになり、あるときキリストとの結婚を幻でみたという物語が主題となっているという。キリストとの神秘的な結婚を結んだというエピソードに幼児のキリストを描くというところが、自分などには理解できないところがあるけど、16世紀には人気のある画題であったという。
2020年購入の新収蔵作品である。ストロッツィ(1588-1644)はイタリアのバロック期の画家。どことなくルーベンス(1577-1640)と似た雰囲気を感じないでもない。ストロッティとルーベンスは年代的にはほぼ同世代のようだし、ルーベンスは1600年から8年間イタリアに留学しているので、同じ時代の空気感、芸術的趣向性を共有していたのかもしれない。まあこれはまったくの想像でしかないのだが。
ルーベンスの作品は「眠る二人の子供」とこの「豊穣」の2点が並列して展示してあった。「眠る」の方は何度も観ているが、「豊穣」は多分あまり観ていない作品だ。この作品はタペストリー制作のためのルーベンス自身による油彩下絵だという。
ペーテル・パウル・ルーベンス | 豊穣 | 収蔵作品 | 国立西洋美術館
これはお馴染みの作品。サロメというと運命の女(ファム・ファタル)という連想がある。画題としてはモローなどが象徴的に描いたものなどが有名だ。前にも書いたような気もするが、ティツィアーノの描くサロメはなんというか「女の二の腕」というか、とても酷薄な運命の女というイメージがない。密かに「女の二の腕」とか「肝っ玉サロメ」と呼んでいる。宗教的物語に意味を付与するものも時代によって変遷するということなのだろうか。
2点ともにお馴染みの作品である。アンゲリカ・カウフマン(1741-1807)、マリー=ガブリエル・カペ(1761-1818)。カウフマンはスイス出身の女流画家で、当時としては珍しい歴史画を得意とした人で、画風は新古典主義。マリー=ガブリエル・カペはフランスの画家。画風はロココ趣味で主にサロンを中心に活躍した。この自画像は22歳の時のもので、若々しさと自信にあふれている。なにか精いっぱい盛ってみました的な気負ったドヤ顔という印象がある。
18世紀から19世紀にかけて、女流画家自体が希少性があったと思われるのだが、その中でも成功した二人の作品を西洋美術館は今回並列して展示している。
17世紀後半から18世紀にかけて活躍したイギリスの風景画家。水彩画が得意だったと伝わっているが、これは油彩画。西洋美術館の本館と新館の間の回廊に展示してあったが、どこか心を惹かれる秀作だと思う。多分、これまでにも一、二度は観ているのかもしれないが、あまり印象はなかったが、今回はなにか感じるものがあった。一般的にはコプリー・フィールディングというらしいが、フルネームだとバロック期の肖像画の大家と混同してしまうかもしれない。
新収蔵品だ。ラファエル前派の主要メンバーであるミレイの作品だが、あまり象徴的な意味性はないのかもしれない。タイトルは単にミレイの子どもたちがピアノの下に集まっていて、毛皮にくるまっているところからつけられたということらしい。とはいえミレイである。作品中央にいる子どものこちらを見つめる目力は人を惹きつけるものがある。これに並列してミレイの「あひるの子」も展示されている。ミレイの眼力2作品といった趣だ。
これらの作品が展示してあるのは本館から新館への回廊に続く新館の部分。これまでだと印象派作品が主に展示してある。
以下、お気に入りの作品をいくつか。
安定の構図、画力、これぞ絵画というような作品だと密かに思っている。
今回のミニ企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」
調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより|国立西洋美術館
により、大成建設がコルビュジエ作品を多数コレクションしてることがわかった。検索してみるとヴァーチャルな美術館HPも公開もされている。
最後にベルト・モリゾの作品とともに資料展示されていた中に、モリゾの肖像写真があった。美人と誉れ高く、マネの絵のモデルとしてもたびたび描かれているが、やはり美しい人だったんだと改めて実感した。