フェルメールと17世紀オランダ絵画展  (3月1日)

 最初に白状しちゃうけど、本当はこの日に行こうと思ったのは六本木の「メトロポリタン美術館展」。実際、行ってみるとまさか国立新美術館は火曜定休だとか。日本全国津々浦々、美術館は月曜日がお休みだと思っていた。それで急遽、上野に向かうことにしてナビに上野パーキングセンターを入れました。

 そういうことで行ってきました東京都美術館ドレスデン国立個展絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」。

ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展

 事前情報でフェルメールの出品は1点のみと聞いていたので、あとは17世紀のオランダ風景画や風俗画ものなんだろうなと思っていました。東京都美術館では以前にもこういう企画があったなと思いだしました、確かデルフトがどうのというやつ。

東京都美術館 フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち【G】上野・浅草ガイドネット

 2008年だからもう14年も前のことになるんだね。この展覧会も観に行ったけれど、えらく混んでいてストレスのたまる美術館だったように記憶している。いや、この雑記にもそんな記録があった。

 この企画展の時にはフェルメールの作品は3点出品されていたのだけど、実をいうとほとんど記憶がない。あやふやな記憶だけどたしかサーレンダムの教会内部の細密描写した絵があったような。でもってそれが気に入ったような。

 14年前はフェルメール3点だけど、今回は1点のみ。それでいて「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」とうたうのだ。近年、フェルメールは人気があり集客力抜群ということで、こういう企画になるのかもしれない。日本的にいうと困ったときのゴッホフェルメールみたいなところか。

 べつにこの企画展に対してあまりいい印象もっていないような感じに思われるかもしれないが、実をいうとフェルメールをあまり評価していないというか、好きでない。17世紀オランダ絵画的にいえばただの風俗画家という感じがしないでもない。彼が評価されるのは「真珠の耳飾りの少女」と作品の希少性のためではないかと思ったりしている。まあ「真珠の耳飾り~」は何年もスマホの待ち受けに使っていたくらいの俗物だから、嫌いじゃないんだけど。

 今回の企画展ではフェルメール唯一の出品作「窓辺で手紙を読む女」については、1979年のX線調査で背後の壁面にキューピッドの画中画が描かれていたことが判明した。これが塗り消されたのはフェルメール自身によると考えられていたのだが、2019年にフェルメールの死後、何者かが塗り消したことが発表された。そして大規模な修復プロジェクトによりキューピッドの画中画が現れ、フェルメールが描いた当初の姿で所有するドレスデン国立古典絵画館で公開された。そしてドレスデン以外では世界初となる公開が東京で行われるという。これが今回の売りなのである。

 今回はこのフェルメールの1点の他に、レンブラント(1点)、ライスダールやヤン・スターンなどの17世紀オランダ絵画約70点が出品されている。展示は東京都美術館のB1から2Fまでの3フロア、しかも1Fはほぼ「窓辺で手紙を読む女」1点のみを展示し、その修復作業や修復前の複製画も展示するなど丸々ワンフロアでフェルメール1点で占めている。

 このパターンなんか既視感があるなと思ったのだが、何年か前に同じ東京都美術館で開かれたブリューゲル展がこのパターンだった。あのときは「バベルの塔」1点でワンフロア使ってた。まあ企画内容によってはこういう展示もありだとは思うけど、なんとなくあざといものを感じてしまう。

 「窓辺で手紙を読む女」についていうと、どうしてもこれまで見慣れてきたせいもあるからか、修復前の方がなんとなくしっくりくるような気がする。

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「手紙を読む女」 修復前

 この何もない壁面がフェルメールのもつ静謐な雰囲気を醸し出しているとは、よくいわれる作品の解説などでいわれることだ。

 それに対して修復後のキューピッドの画中画のある絵はこちらである。

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「窓辺で手紙を読む女」 修復後

 キューピッドの画中画が大きい。なんなら手紙を読む女よりも大きいくらいで、全体のバランスも悪いような気がする。さらに全体として雑然とした感じもしないでもない。これってフェルメールの描いた当初の姿、いいのかこれ。

 並べてみるとどうだろう。

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 なんとなく素人目にもキューピッドの画中画がないほうがすっきりしているような気がする。多分、この論争ってけっこう議論実は出尽くしているのかもしれない。もともと画中画の存在は1979年に判っていたのに40年近く経ってから修復が行われた理由が分かるような気がする。X線でわかった画中画がかなり大きい、これってちょっと失敗と思ったフェルメールが自ら塗りつぶした、なるほどそりゃそうだ、みたいなそういう説だってあったかもしれない。

 多分、修復することになったのは、塗りつぶしたのがフェルメール本人ではないことが判明したためだろうか。そして画家本人が描いたものであれば、それを再現した方がいいという判断が下されたということか。でも、なんかこれって露わにしたら実はやらかしでしたみたいな風にも思えないだろうか。

 もちろんキューピッドの画中画が現れたことによって、女が読んでいるのが恋文であることが明示化されたということもある。そういう寓意をあからさまにしたほうが当時としては受けが良かったとかそういうこともあるのかもしれない。しかし静謐な雰囲気はまったくないし、フェルメールが得意とした光の効果も限定的なようにも思う。

 まあ自分のようなニワカがどうこういう前に、実はこの絵の評価についてはいろいろ意見が出尽くしているのかもしれない。それでも画家の真筆による画中画を再現する、そういうオリジナリティを優先するという判断がどこかで下されたのかもしれない。

 ここからはニワカの勝手な妄想の類になるけど、このキューピッドの画中画を消した人物は誰なんだろう。フェルメールの死後、持ち主がなんとなくこのゴチャゴチャとした雰囲気に違和感があって、知り合いの画家に相談したところ、それではキューピッドを消してしまいましょうみたいなことになったとか。

 この絵の来歴でいえば、ポーランド王アウグスト3世がレンブラントの作品という誤った鑑定のもとで購入してコレクションに加えたというから、その頃にアウグスト3世のお抱えの画家により消されたのかもしれない。もしそうだとしても修正を加えた画家は相当な技量と審美眼を持っていたのかもしれない。さらにいえばアウグスト3世自身、政治にはほとんど興味がなく、もっぱら美術や音楽の愛好家だったから、彼自身の審美眼からそれを命じたのかもしれない。

窓辺で手紙を読む女 - Wikipedia

アウグスト3世 (ポーランド王) - Wikipedia

 ちょっとしたイタズラだけど、この画中画のキューピッドをもう少し小さくしたらどうだろうか。試しに画中画を縮小してペイントソフトで合成してみた。

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 なんとなくスッキリするような気がするけど。まあこういう冒涜行為はやめておきましょう。

 

 その他の作品で気になったもの。

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「若きサスキアの肖像」(レンブラント

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「ハガルの追放」(ヤン・ステーン)

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「槍を持つ男」(アーレント・デ・ヘルデル)

 個人的にはこの絵が一番印象に残った。前に突き出され強調された槍、これは短縮法というテクニックなのだとか。この装飾が施された槍は当時オランダの自警団が携えていた武器で、作者のアーレント・デ・ヘルデルは自ら市民自警団の団長を務めていたのだとか。そのため自らをモデルにした自画像とする説もある。

短縮法

風景を展望すると、手前にあるものは大きく見えますが、対象が遠くに離れていくにしたがって徐々に小さく見えてきます。
このような視覚的原理に基づいて対象を描くことを、短縮法といいます。
短縮法も遠近法の一種で、線遠近法(透視図法)の原理で描いていきます。
風景や室内の描写よりは、特に人体や物体を画面に直行・交差するように配置して描く際に用いられる言葉です。

短縮法とは : 美術の見方~美術鑑賞をもっと気軽に、もっと知的に~

 

 今回の出品作品はすべてドレスデン国立古典絵画館所蔵だという。

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アルテ・マイスター絵画館 - Wikipedia

 ドレスデンというと第二次世界大戦での無差別空爆ドレスデン空爆を思い浮かべる。この建物はあの戦禍から逃れることができたのか。調べるとやはり空爆により焼失し、戦後再建されたものだとか。

ドレスデン爆撃 - Wikipedia

 この爆撃では25000人以上が亡くなり、市街の85%が消失したという。広島や長崎の原爆に匹敵する都市への無差別爆撃だったと記したのはカート・ヴォネガットだったか。自分は彼の『スローターハウス5』でそのことを知った。