姫路のマティス「松方コレクション」か

 朝日の夕刊7面にこんな記事があった。

 デジタル版で検索するとほぼ同様の記事が8月25日にも出ている。

姫路のマティスは松方コレクションか 不明の絵と一致:朝日新聞デジタル

 姫路市立美術館が所蔵するアンリ・マティスの「ニース郊外の風景」が松方幸次郎によって蒐集された「松方コレクション」だった可能性があるという。記事によると姫路市内の外科医国富奎三氏が1977年にロンドンのサザビーズのオークションで落札した作品だという。国富氏はほかの蒐集品とともに1994年に姫路市立美術館に寄贈したという。

 2018年に松方コレクションを撮影した多数のガラス乾板が2018年にフランスで発見され、その中の「木陰の女たち」という作品の絵柄が「ニース郊外の風景」と同じだというのだ。松方コレクションについて詳しい西洋美術館の陳岡めぐみ主任研究員は現時点では直接確認がとれていないが「同じ作品である可能性が高い」と話しているという。

 また8月25日の記事では落札した国富医師は「購入したときの競売前の内覧会で『この作品は松方が所有していた』と耳打ちされたと話している。

 朝日夕刊の記事によると松方コレクションにあった「木陰の女たち」はマティスが1918年に制作、松方が21年にパリの画廊で購入して40年頃に売却したとされている。

 これについては2019年に開催された「松方コレクション展」の図録のマティスの作品「長椅子に座る女」の解説に興味深い記述がある。

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ドイツ軍のパリ侵攻を前にした1940年初め、松方からコレクションの管理を託されていた日置釭三郎はフランス北部の寒村アボンダンの自宅へ作品を疎開させる。日置は保管や疎開のための諸経費を捻出するため、松方の許可を得てコレクションの一部を売却した。1940年頃にボナール5点(M69-M73)、ブーダン1点(M89)、マティス6点(M728-M733)が、その後、ゴーガン(M501)、マネ(M691)、モネ6点(M784-M787、M789、M790)も売却された。この時期に美術品を購入できたパリの画商はそう多くはないはずで、売却先は、作品疎開にも関係したパリの画商アンドレ・シェーラーかその周辺の画商たちだろう。

図録P258

 松方コレクションの疎開に腐心した日置釭三郎については、松方コレクションを題材にした原田マハの『美しき愚かものたちのタブロー』にも描かれていた。なんとかして松方コレクションを保管し続けるために努力したが、心ならずもその一部を売却することになった。多くのコレクションを守るためにある種犠牲となった作品、その中の一つがその後多くのコレクターの手を経て今姫路にある。そういう可能性があるということのようだ。

 

 名画とそのコレクター遍歴はある種のドラマ性を有している。絵自体の美とは別にそうした背景、それはある部分歴史性をも帯びているのだと思うが、それらに思いをはせながら鑑賞するというのも楽しいことかもしれない。いつか機会があったら姫路でマティスに絵を観てみたいものだ。

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