「新人世の『資本論』」と祝賀資本主義

集英社Twitterから

集英社新書編集部 on Twitter: "【ついに34万部突破!
斎藤幸平★『人新世の「資本論」』】

「SDGsに騙されるな。地球も、人も壊される。
――資本主義にさよならを」

朝日・読売の両紙に『人新世~』の全面広告を打たせていただきました。

気候変動の根本原因と処方箋を考えるための一冊です。ぜひ。… https://t.co/3IwCvdoVMH"

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 話題の新書の全面広告にびっくりした。朝日だけでなく読売にも。34万部という最近の新書としては異例のベストセラー。とはいえ1点の書籍だけで全面広告をうつというのも異例中の異例だとは思う。これはひとえに新聞書籍広告の価格が下がっているということなのかもしれない。さらにいえば出版社の集英社は昨年からの例のメガヒットコミック『鬼滅の刃』のおかげでかなり余裕あるのだろうと勝手に想像する。

 この本についていえば、周囲のけっこうな人が読んでいる。Twitterでもけっこうな評判を呼んでいる。確か新書大賞も受賞している。何度か書店でも手に取り、Amazonでもポチる寸前までいっているのだが、実はまだ入手していない、読んでいない。いつか読まなくてはと思いつつ、脳内積読状態のままでいる。

 そもそも「人新世」ってなんだろう。まずは読み方が実は覚束ないでいる。ググると「ヒトシンセイ」というらしい。

人新世 - Wikipedia

人新世(じんしんせい、ひとしんせい、英: Anthropocene)とは、人類が地球の地質や生態系に与えた影響に注目して提案されている、地質時代における現代を含む区分である

 なんかわかったようなわからないような。ようは地質時代区分によって現在を、ヒトが主役となる時代として、人が地球環境に及ぼした影響等から様々なアプローチをしていくということだろうか。

地質時代

地質時代は生物の進化(と絶滅)を基準に分けられています。下の図には、地球上の生命の歴史が簡潔にまとめられています。地質時代を通じていろいろな生物が栄枯盛衰していますが、各時代の境目には、それぞれ主役となる生物の交代があったわけです。 

 

 その「新人世の『資本論』」の著者、斎藤幸平氏のインタビューが8/24日朝日夕刊に載っていた。東京オリンピックについて語ったものだが、かなり興味深い内容だったのでメモとして引用する。

 米国の政治学者ジュールズ・ボイコフは、五輪のようなメガイベントの本質を「祝賀資本主義」と批判しました。お祭り騒ぎに便乗して、特定の人たちや企業が政府や開催都市の大型支出で利益を得て、そのツケは国民に押しつけるというものです。

 五輪の場合、勝利の感動はその構造を隠す格好の手段ですが、東京五輪では感染爆発のせいでその構造がわかりやすく見えてしまい、スポンサー企業がイメージ悪化を恐れるという事態となりました。

 ただ、準備段階では所定の目的を達したようです。一つが神宮外苑地区の再開発。国立競技場周辺は公園や公営住宅など公共スペースの多いエリアでしたが、競技場の建て替えに便乗してそれらを壊し、建物の高さ制限を緩和して高層ビルの建設を可能にしました。

 成熟都市で新たに開発できる「フロンティア」を無理やり作り出し、公園や景観などの公共財=「コモン」を私物化していく。新しい土地を開発して膨張したいという衝動は資本主義に備わっているものです。

  「祝賀資本主義」というのは初めて聞く言葉だ。かって災害や危機に便乗して急激な市場改革を行うことについて、ナオミ・クラインが「ショック・ドクトリン」と批判を加えた。いわゆる災害便乗型資本主義だ。

ショック・ドクトリン - Wikipedia

 「祝賀資本主義」はいわばそのお祭りバージョンということか。巨大イベントによって人の目を逸らせ、その祝賀的喧噪に便乗して急激な市場改革(=規制緩和)を行ったり、国や自治体の大型支出から巨額な利益を得るということか。電通パソナにより巨大な中抜き、中間搾取が喧伝された、パンデミック禍強行された東京オリンピックの本質を見事に射貫いているような言葉だとは思った。

 ジュールズ・ボイコフが「祝賀資本主義」とオリンピックを批判したことについては、その著作『Celebration Capitalism and the Olympic Games (Routledge Critical Studies in Sport)」が詳しい。

https://www.amazon.co.jp/dp/1138805262/ref=cm_sw_r_tw_dp_ZX21JJXV6V0QSSVJWNG2

 今のところ邦訳はないようだが、多分どこぞの出版社から翻訳本が刊行されるのではないかと思っている。本来的にいえば東京オリンピック開催にあわせて刊行されてもよさそうにとは思うのだが。この本のレビューもネットで調べると少しはあるようだ。

図書紹介:Jules Boykoff 著『Celebration Capitalism and the Olympic Games』
鈴木 直文

https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/27695/sportsk0340000600.pdf