団地の最終確認

 兄の住んでいた団地が明日売却となる。なので昨日、今日と部屋の中の最終チェックに来ていた。住宅用洗剤や雑巾、掃除機、脚立など残しておいたものも全部引き上げた。

 昨日は残しておくエアコンの動作チェックをしてみたら、リモコンがうまく作動しない。12月に使ったときには普通にできていたはずだったのだが、オンオフの反応は悪くて何度か試してやっと作動するみたいな状態だった。それで試しに近くの家電量販店で汎用性のある安いリモコンを買ってきて試すと問題なく作動した。

 今日はもう本当に最後のチェックと念のため部屋の中の写真を撮った。記念とかそういうことでなく、いわば一つの記録みたいな感じか。

 この団地のことはこれまでも何回か書いていると思うが、兄を住まわせるために急遽購入した。それ以前に住んでいたアパートがゴミ屋敷と化していたこと、会社を定年してすぐに白内障で入院手術をし、預貯金もなく逆にけっこうな借金をするなどほとんど困窮した状態だった兄を自分の家から比較的近いところに住まわせて面倒をみるためだた。アパートを借りることも考えたが、またゴミ屋敷と化すことを考えると自己所有の方がいいのではと思った。

 何件かマンションも見て回ったが、安い物件だとワンルームで長く住むには適しないものが多かった。そこで築年数がだいぶ経った公団住宅を幾つかあたってみて、見つけたのがこの団地だった。築年数は40年くらいで3DK、エレベーターなしの5階建ての5階というところだった。今となっては老人を5階に住まわせるのは難しかったかとも思うが、その時兄は60歳で糖尿や高血圧症を抱えていたが歩行とかは問題なかった。

 なによりもゴミ屋敷の1DKのアパートに住んでいたのだから3DKで50平米近い広さは、苦労してきた兄に少しでも快適な生活を送らせたいという思いでもあった。このダイアリーの記録をみると2010年のことである。10年と少し前のことになるわけだ。

 それから4年後、兄は暮れに自転車で転倒して入院、片目を失明した。急に呼び出され病院に行った。それから着替え等を揃えるため兄宅に入るとそこはまたゴミ屋敷と化していた。入院した兄の見舞いをしつつ年末年始は兄宅の掃除をして過ごした。

 さらに2年後、人工透析に来ないと病院から電話が入り急遽兄の家に行くと低血糖で倒れていた。救急を呼び緊急入院をさせた。その時も部屋は荒れ果てていて、おまけにキッチンの流しは腐食して穴が開いている始末で、キッチンを全部入れ替えるはめになった。

 その後も何度か兄は緊急入院することがあり、そのたびに呼び出された。そして去年の暮、動脈硬化症による足の壊疽と火傷により緊急入院と一週間後に敗血症性ショックによる急死。

 そして1月、遺品整理してそのほとんどを業者に引き取らせて消却した。49日法要と前後して購入した時に仲介してもらった業者に連絡をとり売却を進めた。田舎の団地なので売却金額は安く、購入した時よりも40万近く安い金額で売りにだし、ようやく売り先が決まった。

 本当にいろんなことがあった10年でもあった。そして明日には兄の記憶とともにこの団地の一切合切が忘却の中に消えていく。近くに住んでいるとはいえ、それでも車で20分くらいかかるところだ。多分、二度とこの団地の中に入ることはないのではないかと思う。

 この10年、仕事的には責任ある立場にありけっこうハードな日々でもあった。妻の介護もろもろもあったし、子どもは中学から高校、大学、そして社会人になる時期でけっこう難しい時期だったし、なにより金がかかった。そこにもってきて兄のことである。

 多分、明日で兄のことで抱えていたことがほとんどすべて終わることになる。出来れば兄との良い記憶だけを残してそれ以外は忘れてしまえればと思ったりもする。

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