セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター

セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター(字幕版)

セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター(字幕版)

  • 発売日: 2016/06/15
  • メディア: Prime Video
 

 これはアマゾンプライムで観た。

 最近は夜遅くにNetflixアマゾンプライムのラインナップをつらつら見て過ごすことがよくある。たいてい眺めて終了しちゃうのだが、ちょっと興味を惹いた映画をチェックして後日観るみたいにするのだが、たまにそのまま観てしまう。これはそういう一作の一つ。

 セバスチャン・サルガドは著名なカメラマンだから当然のごとく知っている。最初に知ったのは、多分たいていの人がそうであるように例の『WORKS』だと思う。日本版は岩波から出ていた『人間の大地 労働』である。これを手にとった時にはもうめくるページに、そこにある写真の数々に惹きつけられた。値段が値段だけにいつか買おうと思っていたのだが、いつのまにか品切になってしまった。確か当時で本体14000円くらいだったか。その後、復刊のこととか岩波の知人に聞いたこともあるが、なかなか採算ベースにならないみたいな話だったと記憶している。多分、今は版権も切れているのかもしれない。

 今、この本はアマゾンとかで見てみると、マーケットプレイスの古書でだいたい17000円前後するようだ。買えない値段ではないけどやっぱり逡巡してしまう。いつか手元に置いてと思いつつも大型本で住宅事情もあるし、結局図書館とかで一時眺めて過ごす、そういう本なのかもしれない。

 サルガドの写真はモノクロ画像で、ドキュメンタリーでありながら極めて芸術性の高い作品だ。被写体である様々な人間の内面や個々のこれまでの人生を表出させるような写真、まるでそれは絵画のようでもある。さらにいえば絵画がその描き出したものに、様々な思想、歴史、信仰、体験、心的現象などが込められているように、サルガドの写真には単なる訴求力を超えたものを内在されている。

 写真という静止画において、すでに芸術作品として完結しているサルガドの作品をあえて動く映像とすることに意味はあるのか、さらにいえば映像として再現できるのか、そんなことを考えつつこのドキュメンタリー作品を観ていく。サルガドの作品のスチールとサルガドのインタビュー、さらに古い8ミリ映像を盛り込みつつ、さらにはサルガドの撮影現場をも映像化する。それらによってサルガドのこれまでの軌跡を見事に描いていく。誰が撮ったのかと一度、映画を止めて調べるとヴィム・ヴェンダースとある。なるほどというか、これはもう納得ということになる。

 この映画はヴィム・ヴェンダースとサルガドの長男であるジュリアーノ・リベイロ・サルガドの共同監督という形をとっている。ジュリアーノにとって父親は、取材旅行で何年も帰ってこない存在だった。ジュリアーノは父親を知らないで育ったに等しい。映像作家となった彼は、ヴェンダースと共に父親を撮ることによって、自身の中で不在であった父親を見つけることでもあり、そのことによって父親の仕事を手助けする共同制作者となっていく。

 この映画によってサルガドの様々な活動の遍歴が理解できるようになる。人間の生活、人生を写し取り、物語性のある作品を撮り続けてきたサルガドは、アフリカやヨーロッパの内戦によって難民となった人々を撮ることによって、そのあまりにも悲惨な現状を目の当りにして絶望し、人間を被写体にすることを一時断念する。そして彼は自然の中に被写体を見出し、一連の作品を発表する。

 その後、若いころから共同作業者として、あるいはサルガドのエージェント的な役割を果たしてきた妻レリアと共に、荒廃した故郷の農園の植樹、植林を始める。そして十数年の歳月を経て、山肌がむき出しになっていた山々を緑に帰る。

 サルガドはいったん取材旅行を始めると、その地に何年も逗留して住民たちと親しく接しながら写真を撮り続ける。その年月は3年、5年、7~8年と長期にわたる。息の長い取材を行っていく。同様に植林活動についても長い長い歳月を続ける。そのスパンの長さは一般人の時間軸とは異なるもののようでもある。

 このドキュメンタリー映画はサルガドの写真作品を、彼のキャリアを、その全体像を理解するうえではこのうえない手助けとなる。ありていに言えばサルガドの仕事の全体像を俯瞰するうえできわめて有意な作品だと思う。


世界的な写真家セバスチャン・サルガドに迫る!映画『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』予告編

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