バイデン大統領就任

 ようやく悪夢の4年間に終止符をうちトランプがホワイトハウスから去った。

 実業家にして道化師、プロレスのショーマンであった男が、陰謀論がうずまく世界の救世主として祭り上げられ世界の警察官、唯一の超大国であるアメリカの大統領に君臨した。まさしくそれは悪夢の4年間だ。自らを批判するものは敵であり、自らに否定的な情報はすべてフェイク。そんな男にアメリカは支配されていた。

 民主主義が建前としてもっている選挙結果の公平さを無視し、自らが敗れたのは選挙に不正があったと喧伝して回り、いまだに敗北を認めない男。そんな男が4年間大統領だった。どこの世界に野党の不正で政権交代が行われる。選挙の不正は権力側がその圧倒的な優位性にたって行うものではないか。自らが勝てば公平、敗れれば不正があった、そんな自己に都合の良い自己合理化の論理だけの男だった。

 その男に心酔する者、支持する者がアメリカの半分であるということが、アメリカの分断を物語る大きな事実としてある。アメリカ中西部、ラストベルトといわれる、荒廃し忘れられた地域のプアホワイトたちが、トランプを支持している。彼らは、グローバル化する経済の中で、産業空洞化により仕事を失った人々である。本来なら彼らを救うのは高福祉であり、大規模な公共事業による内需拡大である。

 それに対してトランプの党、共和党は逆にグローバリズムを進める側に立っている。トランプがアメリカ第一主義をとっているとはいえ、彼のバックボーンとなっているのは小さな政府、減税による富裕層優遇である。仕事を失ったプワホワイトを救うためには富裕層への増税とそれらを原資にした大型公共事業政策のはずだ。しかしプワホワイトは空疎なアメリカ第一主義の言葉に酔い、自らの仕事を奪ったのは新興国家であり、超大国化しようとする中国であり、そしてアメリカで新しい生活を得ようとする移民たちだと主張する。

 中心周縁理論でいえば、中心から疎外された者たちが、中心に回帰していくという図式そのままの風景がアメリカに生まれている。さらにいえばもう一つのトランプ支持層はおそらく中小企業の経営者たちだろうか。彼らはトランプの皮相な保護主義的政策によって自らの既得権益を維持し続けようとするのだろうか。

 今回の大統領選挙は悪しきトランプとそれ以外の誰かという究極の選択肢だった。78歳と高齢な民主党中道派のバイデンに誰が期待を向けたか。バイデンはトランプ以外の誰かの象徴的存在だった。ただそれだけのことだ。

 とにかくトランプの再選は阻止され、悪夢の4年が続くことだけは阻止された。もしも新型コロナウイルスの猛威がなければそれすらが危うい局面だったのである。トランプ以外の誰か=バイデンによって、少しだけアメリカの政治が修正され、国際政治、世界経済の位相が以前の方向に少しでもシフトされればいいと思う。

 そして悪夢のトランプともっとも親和的だった政権、日本の自民党政権がこの世界政治の変動と連動することで位相を変えてくれることを祈りたいと思う。アメリカは4年で悪夢を終わらせることができそうである。一方で日本の悪夢はすでに8年を経過している。


「今日は再生と決意の日」 バイデン米大統領の就任演説


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