兄宅の掃除

 今日の午後は兄宅の掃除で過ごした。

 昨日、遺品整理業者が来て空っぽになった部屋の拭き掃除。こういうのも業者に頼むということもあるんだろうが、一応できるところは自分でやっておこうみたいなこと。結局のところこういう作業に没頭することで、身内の死を受け入れようとしてるのか、あるいは忘却しようとしているのか。さらにいえば、他にやるべきいくつかの事務的な手続きとか、自分自身やらなければならないことから逃避しているのか。そういうことについてきちんと整理つける気もなく、ただただ目の前に作業をこなすことだけに専念しようとしている。

 まず台所の拭き掃除。一応、水回りの清掃は整理業者に頼んであり、台所、風呂場、トイレについては簡単な清掃が行われている。とはいえあくまで簡単な清掃で、きちんと見て行けば粗はいくらでもある。これで5万近い金が追加されているのかと思うと、癪に障る部分もないでもないけど、ここはもう無心。レンジ回り用のマジックリンを吹き付けると茶色い汚れが液と一緒に流れ落ちるのでこれをふき取る。

 兄は元々はかなりの喫煙者だったが、ここに越してくる頃には健康を害していたこともあり、煙草はやめたはずだったのだが、やっぱり喫っていたみたいだ。糖尿、高血圧、腎臓病、心臓疾患と病気のオンパレードのようだったのだが、やっぱり煙草はやめられなかったか。遺品整理していても、100円ライターがいくつも出てきたし、まあそういうことだったのだろう。

 そうなると壁は基本ヤニだらけということになる。クロスの部分の汚れは拭いても落ちないので、これは最終的に張り替えになるのだろうか。それ以外の壁の部分は全部かんたんに拭き掃除を行う。ヤニとほこりに油が混ざった汚れなので、基本的にはレンジ用のマジックリンを吹き付けてから雑巾で拭き取る。雑巾は茶色になるのでこれはバケツの水で何度もすすぐ。

 数時間、ただひたすら無心に拭き掃除をする。台所、廊下、洗面などなど。雑巾を三枚くらい使って拭き掃除を行うと、もともとは白地だった部分、汚れて茶色く変色した部分がなんとなくクリーム地くらいになってくる。これ以上は無理かなと思ったりもする。

 台所と居室は全部カーペットを敷いていた。そのカーペットも全部引き取ってもらい捨てた。なので居室の畳はキレイかと思ったのだが、けっこう染みがあったりしている。何かこぼしたのか、これは拭いても落ちない。畳も代えないといけないみたいだ。台所はもともとフローリング仕様なのだが、カーペットをとってみるとけっこうキレイな状態。10年住んだわりにはけっこうイケるかなと思ったりもする。

 そういえばこの家に兄を住まわせるにあたって、ホームセンターで居室3部屋と台所用のカーペットやカーテン類を全部買ってきて、一人で5階まで何往復かして持ち運び、一人で全部はったり、つけたりしたことを思い出した。それぞれ多分一番安いものだったとは思うが、居室分揃えるとそれなりの金額にもなったし、一人で設置するのは大変だった。

 あのとき思ったのは、ゴミ屋敷みたいな狭いアパートに住んでいた兄を少しでも居心地よく住まわせようと、多分そんなことだったんじゃないかと思う。60歳の兄に5階はどうだっかのかという悔いはある。とはいえ一人暮らしで3DKの団地は申し分ない広さだったし、それまでの暮らしを思えばちょっとは住環境的に改善されたのではないかと思ったりもした。

 兄にはとにかくキレイに使って欲しいとだけ言った。兄はずっとビル警備の仕事をしていたので、建物管理はプロでしょうみたいなことも言ったような記憶がある。でも、それから数年すると部屋はじょじょに荒れた状態になった。

 5年前に兄が自転車で転倒して片目を失明したとき、兄宅に入ったときにはゴミ屋敷のような状態になりつつあった。台所はもうベトベト、ドロドロな状態だったし、部屋のあちこちにはゴキブリの羽みたいなものがあった。そのときも兄の入院中に部屋の片づけや清掃を一人でやった。台所は新しいものに交換した。

 掃除をしていると、無心とはいいながらもいろいろなことが思い返される。どちらかといえばいい思い出じゃないことばかりだ。さすがに3時間以上、そんなことをしているとどうにもやりきれない思いになる。適当なところで区切りをつけて、友人に連絡して昼間から酒を飲むことにした。緊急事態宣言の出た翌日、何をやっているんだろうと思う部分もあるが、飲まないとやっていられない気分でもある。まあ付き合ってくれる友人がいるのは有難い。