遺されたCDと兄からの影響

 ここのところ兄の遺したCDを聴いている。兄の持っていたCDの中でジャズ系、かつ自分の持っていないものとかを適当にピックアップして20枚くらい持ち帰った。それをiTunesに入れてプレイリストを作ったりしてみた。

 こと音楽に関していえば、私の音楽の趣向は兄の影響が大きい。初めてビートルズを聴いたのも兄の影響だ。兄はラジオでビートルズを聴いていた。兄が中学生、私が小二くらいのときに兄と二人で『ヤアヤアヤア』を観に行った。兄が連れていってくれたのだ。確かシルビー・バルタンがカメオ出演していた『アイドルを探せ』の二本立てだったと記憶している。兄にビートルズを聴かられていたから、当時の自分はハーモニカで「恋する二人」のジョンのハーモニカの部分を吹くことができた。

 ジャズについても兄の影響で聴き始めた。兄は中卒で働き始めた。当時のことはよく知らないが、兄は給与のほとんどを家にいれていてわずかばかりの自分の小遣いの中から、毎月1枚ジャズのレコードを買っていたように記憶している。文字通りなけなしの金でレコードを聴いていたのだろう。そのころからジャズ喫茶にも通っていたのだろう。そこで聴いたものの中から、気に入ったレコードを買っていたのだと思う。

 兄が持っていたポータブルのプレイヤーで兄の横でいろんなレコードを聴いた。リー・モーガンの「サイド・ワインダー」はEPシングルだった。33回転の4曲入りコンパクト盤というものあったように記憶しているが、MJQなんかをそれで聴いた。あとLPではアントニオ・カルロス・ジョビンなどのボサノヴァ。そしてコルトレーンなんかだったか。不思議と兄のレコードでマイルスというのは覚えていない。

 その後、自分はというと小学生の高学年になると加山雄三にかぶれ、中学に入ると再びビートルズ、さらに当時流行っていたポップス系の洋楽。自分でギターを弾くようになるとフォークだったり、ウェストコースト系のフォークロックなんかだったり。平行してジャズも聴いていたが、自分は多分その頃よく聴いていたのはハービー・ハンコックだったり、CTIレーベルだったりとか。

 兄の影響で聴き始めた音楽も次第に自分の趣向みたいなものが出来てきて、兄とは違う趣向へと広がったいった。でもジャズに関しては割と同じような感じで聴いていたようにも思う。

 しかし自分のビートルズ好きは間違いなく兄の影響だ。ジャズについてもそうだし、ボサノヴァ好きもきっと兄の影響だ。もしも兄の横でポータブルプレイヤーから流れる様々な曲を聴くことがなかったら、兄に質問すると兄が熱く語ってくれるウンチクに耳を傾けていなかったら、多分自分はこんな風に音楽が好きにはならなかっただろうと思う。

 同様のことでいえば、自分が映画が好きになったのは父が子どもの頃から映画館に連れて行ってくれたからだろう。父が観るのはいつも洋画だった。たまに自分が怪獣映画とかを観たいといっても父は洋画ばかりを観せた。一度、『2001年宇宙の度』を観たいといった時も、その隣でやっていた『風と共に去りぬ』になった。そのようにして自分は映画好きになった。

 父が好きな音楽はジャズ系でいえばグレン・ミラーとか。あとはもっぱらクラシックを聴いていた。自分がクラシックを聴くのは多分父の影響だと思う。結局、家族の影響というのは大きいということなんだろう。

 兄は不器用な人だったが、興味がわいたことにはのめり込むことが多かった。音楽でいえばジャズがそうだった。その時々で関心事は変わったけれど、料理、カクテル作り、俳句、競馬とかいろんなことにのめり込んでいた。競馬についていえばもちろん馬券を買うけど、血統事典なんかも買ってなにやら研究しているようでもあった。自分はそういうものにはまったく関心がなかったので、まったくわからない。ここのところの遺品の片づけでも競馬関係の出目表とかは申し訳ないが全部捨ててしまった。

 自分が兄から受けた影響はまちがいなく音楽の趣向だ。兄とはいろいろなことがあったが、残されたCDを聴いていると、兄と共有した思いみたいなものが感じられる。