アーティゾン美術館-石橋財団コレクション

 そしてもっとも楽しみにしていたのは常設展示の石橋財団コレクションだ。

コレクション | アーティゾン美術館

 2015年に閉館間際に観たときもちょっとした感動があった。ここも近代西洋絵画、印象派以降のコレクションが圧倒的に充実している。おそらく国内でも西洋美術館、ポーラ美術館、東京富士美術館と肩を並べるコレクションだ。さらには日本近代洋画も秀作揃いである。この空間にいるだけで幸福な気分になれる。ウィークデイの午後でかつ事前予約制ということもあり、閲覧者もまばらでありゆっくりと絵を観ていられる。

f:id:tomzt:20201014161351j:plain
f:id:tomzt:20201014161404j:plain

 途中、少し疲れたので外の景色が見れる休憩室でちょこっと寝ていたら、たちまち監視員に生存確認されてしまった。美術館でベンチで寝ているとけっこうな頻度で声をかけられることが多い。多分マニュアルかなにかあるのかもしれない。

 遠目で観ていても、名画が並ぶなかでも際立つインパクトをもっている作品、と自分には思えたものを幾つかあげてみる。まずはセザンヌ

f:id:tomzt:20201014142653j:plain

「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」(セザンヌ

 サント=ヴィクトワール山は繰り返しセザンヌが描いている。この作品は1904-1906年にかけて制作されている。セザンヌ1906年に没しているので最晩年の作品といえる。塗り残しを含めてシンプルな筆致で描く若い頃とは異なり色使いも深みを覚えている。最盛期の形態の簡略表現は、後のキュビズムを先導する形となったが、この作品はどちらかといえば色彩表現に深みを見受けられる。時代的にはフォービズムが初動の声をあげていた頃だが、そうした息吹に呼応するような部分が感じられる。

 色調からなんとなくヴラマンクを連想する部分もあるのだが、ヴラマンクもまたどこかでセザンヌのフォロワー的部分があったのだろうか。調べるとヴラマンクはほぼ独学で、ゴッホの影響だけは口にしていたという。しかしフォーヴィズムから脱した後はセザンヌ的な雰囲気の作品を多く残している。ヴラマンクは間違いなく晩年のセザンヌを知っているのではと勝手に想像する。

f:id:tomzt:20201014142708j:plain

「黄昏、ヴェネチア」(クロード・モネ

 モネはどんな美術館にあってもモネであり続ける。他の画家と並列して置かれていれば、必ず秀でた作品として際立つ存在である。この色彩感覚、モネの作品の中でも傑作の部類に入ると思う。

f:id:tomzt:20201014142631j:plain

「プージヴァルのセーヌ河」(カミーユピサロ

 この絵も何度か観ているように思う。前回来た時に観たのか、あるいは貸し出されたのを別の美術館で観たのか。印象派を代表するような風景画とでもいえる作品だが、1870年の制作で時代的には印象派の前史にあたる頃かもしれない。セーヌ河に沿って湾曲する土手と並木道、遠目の街並みという構図は幾つものヴァリエーションとともに多くの印象派の画家が作品化したように思う。明らかにこの構図には北斎や広重の版画の影響が見受けられる。

f:id:tomzt:20201014142559j:plain

「サン=マメス六月の朝」(アルフレッド・シスレー

 これも大好きな作品だ。と同時にこの作品も、もう何度も目にしている。国内でコレクションされている名画は様々な形で貸し出され人々の目に触れることになる。多分この作品を一番最初に観たのは、練馬美術館でのシスレー展だったのではないかと思っている。それ以外でも何度か目にしているような気もしている。

 この作品もピサロの絵と同様に川沿いの湾曲した道と並木道という構図で、より明確な形で遠近法が用いられている。

 名画には様々な特徴があるが、もし手元に置くことが可能なら自分は迷わずこのシスレーの作品を選ぶ。構図の妙、光に移ろう景色の一瞬をキャンバスにとどめた印象派の匠、それらが結実した作品と自分には感じる。さらにいえば、これはピサロにもいうことが出来るけれど、どこか凡庸でもある。だから安心して日常に溶け込む装飾性も持ち合わせている。自室に世紀の大作があっていつもいつも緊張を強いられる生活、そんな訳にもいかないではないか。

 その他気に入った作品をいくつか。

f:id:tomzt:20201014152129j:plain

「すわるジョルジェット=シャルパンティエ嬢」(オーギュスト・ルノワール

f:id:tomzt:20201014152116j:plain

「ピアノを弾く若い男」(ギュスターヴ・カイユボット)
f:id:tomzt:20201014160950j:plain
f:id:tomzt:20201014160959j:plain
「黒扇」(藤島武二)            「針仕事」(黒田清輝