フレッド・アステア&エレノア・パウエル



Fred Astaire and Eleanor Powell. 'Begin the Beguine' Tap dance duet

 『踊るニュウ・ヨーク』(原題:Broadway Melody of 1940)の中の有名なシーンだ。『ザッツ・エンターテイメント』の中でも、これぞタップダンスという形で紹介されていた。この名人芸ともいうべき二人のタップ・シーンではカメラはツー・カットだけである。ようは据え付けたカメラで二人のダンスを延々と撮っている。今なら、様々なカット割りにより、様々な角度から映す、そういうことが多くなるシーンだが、これはツー・カットなのである。カットを割れば、何テイクものカットを繋ぎ合わせることもできる。しかしあくまでツーカットなのである。失敗は許されない。

 おそらく二人のダンスがぴったりと合うまで多分、このシーンのために何テイクも撮影は続けられたのだろう。リハーサルを含めればとんでもない数のテイクを撮られている。名人のそうした苦労のうえにこの有名なシーンがある。

 エレノア・パウエルは当時タップの女王として売り出し中である。でも、このシーンを観るとアステアとのタップの技量の差は歴然としている。一生懸命踊っているパウエルに対してアステアは優雅に流れるように踊っている。タップダンスによくあるバタバタとした感じがまったくない。しかも終始アステアはパウエルをリードしている。フレッド・アステアは本当にタップ・ダンスの天才だったのだと改めて思う。

 アステアよりも技術的に上手いダンサーは当時でも沢山いたと思う。ジーン・ケリーのダイナミックなダンスも有名だ。技術面、特にアクロバティックな技術を考えればおそらく黒人ダンサーのそれはアステアやジーン・ケリーを凌駕している。タップダンスの始祖ともいうべきビル・ボージャングル・ロビンソンやニコラス・ブラザースのダンスは驚異的だ。しかし優雅さという点ではフレッド・アステアがすべてにおいて勝っている。もちろんアステアは技術的にも素晴らしいものがあるし、様々な挑戦を行っていてアクロバティックなダンスもやる。でもアステアにかかるとどんなアクロバティックな、サーカス的なダンスも、自然で優雅な装いを醸し出す。ソフィスティケート=洗練された優雅さというのだろうか。

 この映画『踊るニュウ・ヨーク』は1940年公開である。フレッド・アステアは1999年生まれなので当時41歳、エレノア・パウエルは1912年生まれで28歳だ。二人ともキャリアの最盛期にある。RKOでのアステア・ロジャースのコンビでのシリーズ作は1930年代なので、アステアは30代。まさに全盛期で体力もある頃だったんだなと改めて思ったりもする。

 ふと思ったのだが、エレノア・パウエルはタップの女王の称号をもつだけに、なんとなくジンジャー・ロジャースよりかなり年長というイメージがあったのだが、実はほとんど同世代なのである。ジンジャー・ロジャースは1911年生まれでパウエルより一つ上だ。このへんのことに調べて気づくのもちょっと楽しいことである。ジンジャー・ロジャースはこの『踊るニュウ・ヨーク』が公開された1940年に『恋愛手帖』でアカデミー賞主演女優賞を受賞、まさにキャリアの絶頂期にある大女優だった。それを考えると当時のキャリアという点ではジンジャー・ロジャースは多分エレノア・パウエルよりも、あるいはフレッド・アステアよりも格上の存在だったのかもしれない。

 最後に『踊るニュウ・ヨーク』がもう一つアステア&パウエルの名ダンス・シーンを。


Fred Astaire & Eleanor Powell - Jukebox Dance (1940)

 

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