西洋美術館、ロンドン・ナショナル・ギャラリー展

 誕生日で自分へのプレゼント、別にそんな意味合いもなくただただ仕事に疲れていたので会社を休む。前日からもう休むことを決めていて、ネットでいろいろ美術館情報とかを調べていると、新型コロナで長らく休館を続けていた国立西洋美術館が今日から再開するという。さらに本来は3月3日から6月14日まで開催されるはずであったロンドン・ナショナル・ギャラリー展も今日から10月18日まで開かれるという。

 ただし、当分の間はソーシャル・ディスタンスを保つため、入場は予約制で事前にネットで期日指定予約券を求める必要があるという。それ以前に前売り券を購入した人は、当日並んで整理券を入手する必要があるという。

 美術館が混雑防止でネット等での事前予約制をとるとういのは最近の流行りのようだ。昨年だったか上野の森美術館で開催されたフェルメール展もそうだったし、ビルの立て直しで久しく休館を続けていたブリジストン美術館は再開と同時に事前予約制をとっている。

 事前予約制は確かに入場者数をきちんと管理できる。長蛇の列をなして名画の前では鑑賞客が目白押し状態を避けるためには有効だ。しかし急に時間が出来たのでふらっと絵を観るために訪れるという小さな幸福は排除される。常に目的的に、きちんといついつ絵を観に行くという形を強いられる。

 そういう意味では自分のような行き当たりばったりな人生を送っている者には、あまり向かないような制度ともいえる。

 なので西洋美術館はダメかとも思ったが、よくよくHPを見ていると身障者と付き添いについては特に事前予約が必要ではないと小さく但し書きがあった。もともと木曜はカミさんはデイケアが休みの日で、この日休んで美術館に行くということになると、もれなくカミさんが一緒ということである。まあカミさんと一緒なら少し待てば入れるかもしれない。休館明け初日で混んでいて入場が難しいということになったら、少し遠いが箱根のポーラに行けばいいかとも思い、でたとこで行ってみることにした。

 でもって、入場はというと簡単にできた。車椅子のカミさん押して手帳を見せると思いのほか簡単に入り口へと案内してくれ、いつものようにエレベーターで下がって入場できた。

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 ロンドン・ナショナル・ギャラリーはイギリスの国立美術館ルネサンス期から近代美術までを網羅する世界的な美術館でもある。そこで収蔵する著名な作品はというと、ヤン・ファン・エイク『アルノルフィーニ夫妻像』、ジョヴァンニ・ベリーニ『レオナルド・ロレダンの肖像』、レオナルド・ダ・ヴィンチ『岩窟の聖母』、ハンス・ホルバイン『大使たち』、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー『雨、蒸気、速度――グレート・ウェスタン鉄道』、ジョルジュ・スーラ『アニエールの水浴』、フィンセント・ファン・ゴッホ『ひまわり』などなど。今回すべて初来日となる作品は総数で61点という。

 しかし、そうした著名作品の中で今回来るのはというとゴッホの『ひまわり』のみである。そのほかではフェルメールの『ヴァージナルの前に座る若い女性』が。やっぱり目玉というか、集客が見込めるのはゴッホフェルメールということなのかもしれない。実際、ゴッホの『ひまわり』は7作があり、そのうちの1作は戦争中に神戸で空襲により焼失している。まあゴッホの代表作であり、作品の金銭的価値は計り知れないものがあるとか。花瓶にヴィンセントと名が書かれているのは本作ともう1点あるだけともいう。まあ代表作といっていいかもしれない。

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 ゴッホ若い頃はムンクと並んで大好きだったのだが、ここ20年くらいでいうとなんとなく冷めたというか、それほどでもなくなってきている。絵画への過ぎる熱情とその表出でもあるような厚塗り画面になんとなく違和感を感じるようになった。その情動的な表現にも昔ほど心動かされることがなくなってきてい。ゴッホははしかみたいなもの。若い時分には夢中にさせるような何かがある。でも齢を重ねることにそうした熱情とは違うものを好むようになるとか適当に思ってみる。

 ロンドン・ナショナル・ギャラリーの収蔵作では個人的にはというとスーラの大作である『アニエールの水浴』、ターナーの『雨、蒸気、速度』なんかが来てくれればと思ったりもする。いずれも徳島の大塚国際美術館で陶板複製画を観て、いつかはオリジナルを観たいと思っていた作品だから。

 それでは今回の企画展今一つだったかというと、そんなことはない。展示のための章立てというかコンセプトもしっかりとしていて判りやすい。そのうえでルネサンス期から19世紀にあたる巨匠たちの名画が粒ぞろいということろだ。

Ⅰ イタリア・ルネサンス絵画の収集

Ⅱ オランダ絵画の黄金時代

Ⅲ ヴァン・ダイクとイギリス肖像画

Ⅳ グランド・ツアー

Ⅴ スペイン絵画の発見

Ⅵ 風景がとピクチャレスク

Ⅶ イギリスにおけるフランス近代美術受容

 気に入った作品を幾つか。

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ティッチアーノ『ノリ・メ・タンゲレ』

 ティッチアーノはイタリア・ルネサンスを代表する画家。この時代の職人的画家はみな画力、才能に溢れている。西洋美術館では確か『 洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ』が常設展示されている。あの絵も人を惹きつける魅力がある名画だとは思う。ただ、サロメというとモローの絵のような線の細い蠱惑的な女性のイメージが強いのだが、ティッチアーノのサロメはなんていうのだろう、たくましいおかみさんみたいな感じである。自分は密かに二の腕かあさんと呼んでいる。

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洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ

  「ノリ・メ・タンゲレ」は聖書にあるエピソードで、復活したイエスに遭遇したマグダラのマリアに対してイエスが言った言葉だとか。曰く「俺にさわるな」くらいの意味で、ようは自分まだ父で神のもとに召されていないからくらいのことらしい。この題材はけっこう多くの画家に取り上げられているのだとか。

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ティントレット『天の川の起源』

 ティントレットも16世紀ルネサンスの画家でヴェネチアで活躍したという。ルネサンス期の絵画では必ず出てくる名前でもある。「天の川の起源」の解説を図録から引用する。

神々の王であるユピテルが、息子ヘラクレスに永遠の命を与えようと企てた物語。ヘラクレスの母アルクメネは(神ではないため)命に限りがのある女性であった。しかし、ユピテルの妻でもある神々の女王ユノの母乳を飲めば、ヘラクレスも神になることができた。ティントレットの作品では、ユピテルが天から急降下し、ユノが眠っている間に赤子のヘラクレスを彼女の乳房に置こうとする場面が描かれている。ヘラクレスが力強く乳を吸うために彼女は目を覚ましたところで、赤子を急いで引き離そうとしている。ゆえにユノの母乳は空へと吹き出し、ヨーロッパで乳の道(ミルキーウェイ)として知られる無数の星の連なり、つまり天の川を生み出したのだ。

 むむむ、天の川=ミルキーウェイにこんな由来があったとは。たしかユピテルは浮気症で、ユノは悩まされていたとも。しかし浮気相手に出来た子どもに寝ている間に乳を吸われるとか、その母乳が飛び散って天の川になったとか、どういう展開とか思わざるを得ない。ギリシア神話おそるべしである。

 画像では見にくいけど、ユノの乳首から白い筋が行くとも飛び散っていて、そこに黄金色の小さな星が描かれている。これがミルキーウェイとは本当にギリシア神話恐るべしである。

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レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー

 フランドル派の巨匠にしてイギリス絵画を牽引した肖像画の巨匠という印象のあるヴァン・ダイクである。この人の絵もあちこちの美術館で観た。個人的な印象としては、この人の描く貴族婦人の肖像画はなぜかみんな一緒でおでこで髪の毛がくるくるとしている。肖像画にはリアルに描く人ととにかく美化して同じような美人に描くパターンとかがあるように思うけど、だいたいは後者のパターンが多いようにも思う。ヴァン・ダイクはその先達のような存在かと適当に思っている。

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ジョン・コンスタンブル『コルオートン・ホールのレノルズ記念碑』

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ムリーリョ『窓枠に身を乗り出した農民の少年』