深夜の告白

深夜の告白 [DVD]

深夜の告白 [DVD]

  • 発売日: 2011/02/15
  • メディア: DVD
 

  フィルムノワールの傑作として評判の映画。BSプレミアムで放映されていたのを録画したものを昨晩遅く、というか未明に観た。監督はビリー・ワイルダー、脚本はワイルダーレイモンド・チャンドラーの共作。保険金殺人という当時としては物珍しい題材を一級のサスペンス映画にしたのはワイルダーの凄腕といっていいかも。

 タイトルクレジットの雰囲気はどことなくヒチコック調、そうこの映画は全体としてヒチコックタッチな感じがある。チャンドラーが脚本に参加しているということでヒチコックの『見知らぬ乗客』を連想する部分もあるが、この映画の制作は1951年。『深夜の告白』は1944年作品で、ヒチコックがワイルダーの出自でもあるドイツ風の暗い雰囲気に影響を受けたともいえるのかも。

 主演のフレッド・マクマレイは飄々とした感じの役者で、この映画の中ではちょっと浮いた感じがある。ミス・キャストとはいえないが、もう少し浮ついた2枚目をもってきてもよかったか。

 共演のバーバラ・スタンウィックは自分たちが知っているのはテレビドラマ『バークレイ牧場』の女牧場主。やや中年のイメージなのだが、さすがハリウッドで活躍した女優だけに本当に美人。この映画では魔性の女を演じている。こういう男を狂わせる女性をファム・ファタールというのだとか。

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ファム・ファタール - Wikipedia

 その他では保険会社の調査員役おエドワード・G・ロビンソンが好演。この人は独特な変顔でギャング映画で最後に殺される悪党のボスというイメージが強いが、この映画ではある種の狂言回しとなっている。

 本当によくできた映画で、ビリー・ワイルダーの映画の中でも五本の指に入るのではないかと思う。これまでいろいろと情報は入ってきていたし、いつか観たいと思いつつ果たせなかったけど、こういうタイミングで観ることができてよかったと思う。全体としていささか古い古典的な映画といってしまえばそれまでだが、ストーリーの引っ張りかた、引き締めかた、すべてにおいて隙のない作りだ。ミステリー映画はこのように作るというお手本、教科書のような映画といえるかもしれない。

 保険の営業マンと人妻の逢瀬にいたる過程がややもすれば短絡的といえるかもしれないが、人妻の蠱惑的で意図的に誰かを利用しようとする思惑を匂わせることで、安易な設定が安易ではなくなるような仕掛けもある。

 もともと実際にあった保険金殺人事件を元にした小説の映画化だというが、そうしたリアルな事件をうまく映画化してみせるのはまさにハリウッドの職人芸。ビリー・ワイルダーという職人監督の為せる技かもしれない。

 余談だがこの映画で、アンクレットというちょっとエロチックなアクセサリーを知った男って多分多いと思う。

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