国立近代美術館へいく

 とうとう1月は一度も美術館へ行くことができなかった。なので今回のMOMATが今年最初の美術館詣でとなる。

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 まず最初に観たのは企画展の窓展。これは昨年12月次いで2回目となる。

 いろいろと楽しい作品も多いのだが、やっぱりマティスの作品に目を奪われてしまう。

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『待つ』

 愛知県美術館所蔵の作品でマティスにしては落ち着いたモノトーン配色の作品。窓枠の下の文様が唯一、マティス的華やかさをワンポイントで主張している。

 試しに単眼鏡的に拡大してみる。マティスの意匠とタッチ、日差しに透けるブラウスなどの表現とかが鮮明になる。

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 文様など装飾的で色彩豊かな表現は控えめだが、人物の造形は省略化され、緩やかな表象へと移行しつつある。モロー に学んだマティスはフランス表現主義と呼ばれることもあるのだと何かで読んだことがあるが、なるほど写実や印象から離れ、画家の個性や感情をキャンバスに表出するそれは確かに表現主義と呼ぶにふさわしいかもしれない。

 この緩やかで単純化を希求するような線は、晩年の切り絵による純化された形態表現に繋がっていく。後の抽象表現主義の画家たち、マーク・ロスコウォーホールらがマティスをリスペクトしたというのもうなずける。

 窓展はマティスに尽きるというのが自分の実感なのだが、それは多種多様な窓という切り口による作品を集めたこの企画展に対する冒涜かもしれない。まあこのへんは単純に好みの問題。

 常設展では4階のハイライトの目玉は菱田春草の『雀と鴉』。

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 六曲一双の見事な作品。試みに雀が何匹いるかなどを数えてしまったのはご愛敬。右隻には5匹、左隻には28匹いた。その数には特に意味性はないのだとは思う。同じ4階の逆側にも菱田春草の作品が数展、横山大観の作品が1点展示されていて、朦朧体の表現がよくわかるような陳列がなされていた。

 その他では前回も気になっていた津田青楓の作品に目を奪われる。

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婦人と金絲雀鳥

 津田青楓といえば小林多喜二の虐殺にインスパイアされた『犠牲者』が有名なんだが、こういう正統的な洋画も描いていたことに驚く。調べると洋画草創期に活躍した人で、後には日本画に移行しているいう。そのへんは小杉放庵と似た部分があるか。

 さらに津田青楓は夏目漱石とも親しく、夏目家にもよく出入りしていたようで、多分そこで知り合ったのだろうが、寺田寅彦とも仲が良かったともいう。

 ちなみに代表作『犠牲者』はある時期、歴史家羽仁五郎が所有していたという。ダイエー中内功の腹心でもあり、マルエツの社長なども務めた財界人で美術愛好家にして収集家であった大川栄二は、同郷ということもあり羽仁五郎から自身が所有する絵を見てもらいたいたいと依頼され、葉山の羽仁家を訪れたことが彼の著作の中にあった。

 そのとき、羽仁は津田青楓の『犠牲者』を売りたがっていて、どのくらいの値がつくかを大川に尋ねている。大川の出した値段が羽仁が思っている額とかなり食い違っていたので落胆したということも、大川の記述の中にある。羽仁の尊大さとその落胆ぶりが何か目に浮かぶような気もしないでもない。

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津田青楓『犠牲者』

 この作品には左下に窓が描かれているが、そのせいか作品は窓展のほうに出展されていた。
 その他で気になった作品。

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丸山直文「Garden I』

 筆に水をたっぷり含ませながら絵具を置いて画面に滲みを生じさせる「ステイニング」という技法を多様する画家だという。

 この絵には二つの小さな点がある。よく見るとどうもその点は二人の少年のようで、彼らはボール遊びをしているようなのである。やや俯瞰からボール遊びをする子どもを描く。なにかヴァロットンの『ボール』を想起させるような絵である。