兄、救急搬送

 31日、買い物をすませて夕食を作っていた。今日からカミさんの実家に行くつもりだったのだが、年越しだしせっかく家族で大晦日を過ごすのですき焼きでも作り始め、家族を呼んでさあ食べるかというときに、自分のスマホに着信があり子どもが出て、「電話だよ」と持ってきた。

 相手は病院で兄が救急搬送されてきたという。なんでも自宅のある団地の入り口付近で転倒して出血しているという。骨折やない脳内出血の可能性もあるのでCTをとるという。出来るだけ早くに来てほしいとも。そこで病院の場所を聞くと狭山市だという。

 どうも勝手がわからない。28日に退院したばかりなのにまた病院へ搬送である。しかも透析を受けている病院が自宅近くにあるのになぜ狭山なのか。ただ出来るだけ早くというので、作ったすき焼き鍋はそのままにして、家族に先に食べるように行って車に乗った。しかし買い物のあと掃除をして、そのまま料理に取り掛かったので、酒を飲んでいなかったのは幸いだった。大晦日ということで気を抜いて酒を口にしていたら、タクシーを呼ぶかという話になるところだ。

 病院はかなり大きな救急病院で、多分最近改築したのかもしれない、とにかくキレイな建物である。待合室には何人かの人が座っている。自分と同じように緊急搬送された患者の家族かもしれないし、急に具合が悪くなって夜間治療を受けに来た人もいるのかもしれない。

 受付で兄の名前を言うとすぐに救急処置室に案内され、カーテンに区切った部屋に兄はベッドに寝ていた。呼びかけるが意識が朦朧としている感じである。看護師からはまもなく医師が戻ってきたらご説明しますとだけ言われた。

 しばらくそのまま処置室の一室にいたのだが、その間にも緊急搬送されてくる患者が何人かいて、救急隊の人間も4~5人入れ替わり立ち替わりしている。やや遠くの同じカーテンで区切られた一室で、緊急処置が施され、医師や看護師が数名で対処している。はっきりいって修羅場である。

 小一時間くらいしてから医師が来て説明してくれたのだがその内容としては、外傷は縫うほどの怪我ではない。ただし脳内に出血がある。本人は血をさらさらにする薬を常用しているため、出血が止まらない状態にある。このまま脳内の出血が止まらないと、頭がい骨を切除して大掛かりな手術を行う必要がある。脳内の出血が脳神経に影響を与えた場合は、後遺症が出る可能性もあるなど。

 正直にいってかなりヤバい状況だ。もちろん医師は最悪を想定した説明をしているのだろうけれど。こちらはクモ膜下出血で父を亡くし、脳梗塞片麻痺になった配偶者がいる。脳疾患の恐ろしさは十二分にも理解している。

 こちらも医師に対して、妻が脳梗塞片麻痺になったこと、だから普通の人よりは脳疾患に対しての知識はある。手術の可能性は高いかどうかなどと聞いていくと、多分大丈夫だとは思いますがとのことだった。

 医師の説明の後、兄は再度CT検査のため移送されていった。このままお待ちくださいと看護師に言われたのだが、ここは立て込んでいるし、あまりこういう大変な場所にはいたくない旨を言ってロビーで待つことにした。

 ロビーはさっきとは違い人もほとんどいなくなっていた。しかし夜の大病院のロビーというのも何か独特な雰囲気がある。こういう状況は父親やカミさんの時に嫌というほど経験しているのだが、この雰囲気、なにか世界中の不吉な静寂が凝縮されたような場所は、静かであっても心が落ち着くことがない。

f:id:tomzt:20200104225023j:plain

 しばらく待っていると、看護師が出てきて兄は4階のHCUに移されたという。そこで4階に上がるがそのHCUに行くまでにインターホンでの呼び出しと顔を確認することが要求される。ちなみにHCUとはHigh Care Unitの頭文字をとったもので、一般的には高度治療室と訳されていて、ICU(集中治療室)よりもやや重篤度が低い患者のための治療施設だという。

HCU(高度治療室)とは?ICU(集中治療室)との違いや看護の特徴を紹介します! | なるほど!ジョブメドレー

 行ってみるとやはりカーテン区切られた区画にベッドがあり、その一つに兄が眠っている。それから看護師にいろいろと説明を受け、入院のための書類一式をもらう。病状としてはとにかく脳内の出血が治まるかどうかで、入院期間は手術とかがない仮定しても正月明け以降になるという。説明する看護師さんはマスクで顔半分はわからないが、かなり若くて理知的な美人のよう。たぶんうちの子どもとたいして変わらない年齢なのかなと思ったりもする。説明をしている間にちょうど12時を回ってしまい、看護師さんはそれに気づいたみたいで、「あっ、年変わっちゃいましたね」と。

 しかし脳出血で高度治療室での処置である。これは医療費も相当かかることを想定しなくてはいけない思うとなんとも先が思いやられるというか、暗雲垂れ込める。どこまでも自分にとっては負担となる兄なのである。

 病院を12時半くらいに出て、そのまま帰ろうかと思ったが、念のため兄の団地に立ち寄る。兄の部屋のあるエントランスのあたりにも血痕がある。部屋に入るとキッチンのあたりに血だまりが固まったような跡がある。血痕はそれ一か所だった。そのまま放置するわけにもいかないので、雑巾を濡らして何度も拭くとなんとか血の跡はなくなった。それから汚れ物類をまとめてゴミ袋に詰めて持ち帰った。洗濯は自分の家でやるか、どこかコインランドリーに持っていくか。

 しかしとんでもない大晦日であるのだが、年末に兄のことで病院に行くのは実は二回目のことである。このダイアリーで確認すると2014年の年末のことで、その時兄は近くのスーパーに買い物に行き、自転車で転倒して片目を負傷。緊急手術するも結局失明してしまった。5年前のことだったけど、記憶的には割と最近という感じがしていた。

兄の入院 - トムジィの日常雑記

 この先、こういうことが何度あるのだろうか。それを思うと兄はもう一人暮らしをしていくのは難しいのではないかという思いが募ってくる。まだ70歳になったばかりとはいえ、腎不全で糖尿病、おまけに心臓にも爆弾を抱えているのである。少し真剣に施設とかを探す必要があるのでないかと思い始めた。