『E.T.』を観る

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 今朝、リビングで『E.T.』を観た。いつ録画したかわからないのだが、多分BSでやっていたやつだろう。この手の名作がけっこうHDDに残っていて、つい最近も『ドクトル・ジバゴ』を観た。たまにぽっかり時間が空いた時につい見入ってしまうような作品があるというのはいいことなんだが、なかなか時間がね。

 『E.T.』はもう何度観たか覚えていないくらいに観ていると思う。子ども向けのファンタジーとしてよく出来ているとは思う。とはいえしょせん子ども向けではある。同じ宇宙モノでいえば多分『未知との遭遇』のほうがはるかに出来がいい。あの映画はトリフォーが映画を締めていたなと思ったりもする。

 ウィキペディアによればそのトリフォーから『未知との遭遇』の撮影時に「これから、あなたは子どもたちに向けた映画を創りなさい」と助言を受け、それがスピルバーグの『E.T. 』制作の動機となったという。トリフォーがスピルバーグの資質をよく理解していたということか。芸術性や作品的深みより映画的特性をいかしたハラハラドキドキ、子どもの心を持ったファンタジー作家としての資質というところか。

 実際のところスピルバーグはのちに大変真面目な作品も多数描いている。しかしリアリズム一辺倒の映画には、救いのない暗さと後味の悪さだけみたいな映画も少なからずある。唯一、戦争を真正面から描いた『プライベート・ベンジャミン』だけが映画の娯楽性をも有したエンタテナー作品として成功している。もっともあの作品は、お話自体がある種の戦争ファンタジーであり、壮大な寓話でもある。

 再見した『E.T.』について。この映画は子ども向けファンタジーでご都合主義的な部分が多々ある。当局は秘密裏に宇宙人の訪問の事実を掴んでいる。しかも宇宙船が飛び立った後も宇宙人がそのまま地球に残っている痕跡が残されている。そんな状況でカリフォルニアの郊外に位置する街の日常がそのままであり続けるだろうか。前作『道との遭遇』では軍による封鎖もあったではないか。などなど。

 もっともファンタジーだからそういうリアルに基づく突っ込みは無用なのではある。子どもと宇宙人の遭遇と交流。それが子どもたちの日常との交差のなかで楽しく描かれている。理科の授業のカエルの解剖、ハロウィンなどなど。そのへんの日常的なリアリズムが宇宙人との交流が観客には自然に受け止められる仕掛けとなっている。

 そしてこの映画の最大の魅力でもある、月を背景に飛ぶ自転車のシーン。多分、スピルバーグはこのシーンを最初にイメージして、そこから映画を発展させたのではないかと思えるくらい、楽しく、魅力的なシーンとなっている。ウィキペディアの記述によれば、スピルバーグはこのシーンをたいへん気に入っているとか。

 この映画のテーマは「両親の離婚」だという。そして最後に主人公の少年とE.T.の別れは、両親の離婚を受け入れるメタファーだとウィキペディアにはある。それはどうかなと思う部分がある。というのは、離婚による片親の家族というのは、この時代のスピルバーグでは繰り返し用いられるシチュエーションである。70〜80年代のアメリカは、それまでの伝統的な家族関係が崩れ、母子家庭、父子家庭が日常的になりつつあった。

それをスピルバーグが積極的に取り入れたのではないかと思う。さらにいえばスピルバーグの両親は離婚している。そういうものが背景にある。

 両親の離婚による喪失感とそれを埋める何か、そして最後には離婚を受け入れて成長していく。これはスピルバーグの初期から中期の作品に繰り返される主題なのかもしれない。そういう意味では『E.T.』のテーマの中には、父と母の離婚とそれを受け入れていく子どもの成長物語めいた部分はあるのかもしれない。

 主演のヘンリー・トーマスはやっぱり上手だ。最近は『シャイニング』の続編『ドクター・スリーブ』に主演している。そして末っ子の女の子を演じていたのはドリュー・バリモア。子役からトップスターに上り詰めた彼女もとにかく可愛かった。