西洋美術館再訪〜松方コレクション展

 科博の次には西洋美術館に行く。もとより自分的にはここに来るのが目的である。自分にとってはここと竹橋の近代美術館がベースみたいなもので、暇があれば訪れたいと思っているところ。土曜日は8時とか9時までやっているのも有難い。

 ここの企画展は6月からやっている松方コレクション展。戦前、松方幸次郎が買い集めた美術品、散逸のなか戦後フランスから返還された作品を元に西洋美術館は開設されたというが、松方の収集の量、そのエネルギーは素晴らしい。美術館の開催概要を引用するとその規模の一貫が窺われる。

神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)を率いた松方幸次郎(1866(慶応元年12月1日)-1950)は、第一次世界大戦による船舶需要を背景に事業を拡大しつつ、1916-1927年頃のロンドンやパリで大量の美術品を買い集めます。当時の松方のコレクションは、モネやゴーガン、ゴッホからロダンの彫刻、近代イギリス絵画、中世の板絵、タペストリーまで多様な時代・地域・ジャンルからなり、日本のために買い戻した浮世絵約8000点も加えれば1万点に及ぶ規模でした。

しかし1927年、昭和金融恐慌のあおりで造船所は経営破綻に陥り、コレクションは流転の運命をたどります。日本に到着していた作品群は売り立てられ、ヨーロッパに残されていた作品も一部はロンドンの倉庫火災で焼失、さらに他の一部は第二次世界大戦末期のパリでフランス政府に接収されました。戦後、フランスから日本へ寄贈返還された375点とともに、1959年、国立西洋美術館が誕生したとき、ようやく松方コレクションは安住の地を見出したのです。

開館60周年を記念した本展では、名高いゴッホ《アルルの寝室》や、2016年に発見されたモネの《睡蓮、柳の反映》など国内外に散逸した名品も含めた作品約160点や歴史資料とともに、時代の荒波に翻弄され続けた松方コレクションの百年に及ぶ航海の軌跡をたどります。

  買い集めたコレクションの全貌は、散逸したもの、記録自体が散逸しているためすべて概算のようで、同じこの企画展の中でも「10年ほど で収集した西洋美術は、モネ、ゴーガン、ゴッホの絵画、ロ ダンの彫刻など近代の作品から、中世の板絵やタペスト リーまで3000点以上」という記述もある。

 3000点以上の美術品を収集したのである。多分、当時のヨーロッパでも東洋の小国の成金が美術品を買い漁っていると陰口をさんざん叩かれたのではないかと想像する。

 今だってオイルマネーでアラブの金持ちが西洋の土地、建物、美術品を買い漁るということが報道される。あの時に我々が感じるような感覚と同じものだろう。

 そしてお決まりのように、関東大震災第一次世界大戦後の世界恐慌の結果、松方の経営していた造船所は破綻し、収集された美術品は何度かの売り下げというオークションによって散逸していく。多くの企業や金持ちがこの売り下げに参加し、美術品は国内に留め置かれた。それらはまた西洋美術館に買い戻されたり、寄託されたりして展示されている。さらには大原美術館などを中心に地方の美術館で購入されたものも多数ある。

 今回はそうして散逸された美術品の一部も展示されている。そしてフランスから返還されなかった作品も数点が貸し出されて展示されている。ある種の目玉ともいうべき、ゴッホの「黄色い部屋」もその一つだ。

 まあ多くの展示品は常設展で馴染みのものが多いが、凝縮された形で今回展示されているのを観るにつけある種の感慨がある。

 そして前回も訪れた時に思ったことだが、戦争と美術という問題。戦禍によって焼失した貴重な作品のことを思うと胸が痛む。戦争は絶対に起こしてはいけないと、それを改めて思う。