アマゾン書籍買い切り

 Twitterのタイムラインをつらつら眺めていたら、「アマゾン書籍買い切り 値下げも検討」の文字が目に入った。早速、リンク先で記事を確認した。

headlines.yahoo.co.jp

www.nikkei.com

 毎日の記事によると買い切り品の値下げについては、「一定期間は出版社が設定した価格で販売するが、売れ残った場合は出版社と協議して値下げ販売などを検討する」ということで、これはいわゆる次元再販に近い。

 いよいよ黒船アマゾンが、再販制度に切り込んできたということだろうか。これに応じる出版社も様々だとは思うが、出版業界の厳しい売り上げ状況の中では、そして返品率が40%以上という現実の中で、業界の売り上げシェアを独走するアマゾンの提案には、断りきれない出版社、藁をもつかむようにとびつく出版社が多数あるのではないかと思う。

 しかしもともと売れない本が、値引きをすれば売れるのかという疑問がついて回る、ではなぜアマゾンがこのタイミングでこうした仕掛けをしてきたのか。それはここ数年、出版物流の中抜き、取次を介さず直で出版社との取引を志向してきたアマゾンの次の一手ということじゃないかというのが、多分一般的な見方のように思える。

 アマゾンは取次を介した出版物流では注文品の調達日数の短縮が抜本的に難しいこと、出版社と直仕入れを行うことで利益率を大幅に改善させることなどを理由にここ数年、出版社に対して直仕入れを提案し続けてきている。

 しかしこれがあまり進んでいないということもよくいわれている。アマゾンとの直を進めている出版社は取次売り上げ上位の出版社の中では10数%程度にとどまるのではないかと思われる。主要出版社では片手くらいではないかと推測している。

 出版社側にも事情はある。アマゾンに生殺与奪のすべてを握られることへの危惧。大手書店との関係性の重視など。少し前にアマゾンとの直取引が大きく喧伝されたときに、ナショナルチェーンの書店トップが大手出版社幹部を集めて牽制したなんて話もあったように記憶している。

 そうした中でアマゾンの出版社との直取引推進のための次の一手がこの買い切りの提案なのだと思う。本が売れない厳しい状況の中で、返品率は40%以上とまでいわれ、これが出版社の経営を締めつけていることは紛れもない事実である。そこに圧倒的な販売力をもつアマゾンからの魅力的な提案だ。

 しかし日経の記事にあるような発言が大手出版社から出たのが本当だとすれば、これはこれで問題だ。

返品が可能なため書店はこれまで本を販売する努力を怠ってきた。書店が責任を持って販売することで市場活性化につながる。 

 まったくにおいてどの口が言っているのか、頰をつねってやりたくなる書店が多数ではないかと思う。確か八重洲ブックセンターの社長Twitter が怒りの声をあげていたっけ。

八重洲山【八重洲ブックセンターの社長】 on Twitter: "★なにい〜!!(怒)
『大手取次会社の幹部は「売れる商品をアマゾンが大量に仕入れた場合に、地方の中小チェーンに書籍が届かなくなる可能性がある」』
アマゾン「書籍買い切り」: 日本経済新聞 https://t.co/bD0JiFuYmG"

 本屋からすれば売れない本ばかり作りやがってという声が漏れ出しているのではないだろうか。しかも今の正味体系と価格帯でいえば、10冊仕入れても2〜3冊売れ残ればそれで書店の儲けは吹き飛ぶことになる。これで責任販売は実はありえない。

 ついでにいえば、記事の中では触れていないが、アマゾンが提案する「書籍買い切り」には多分裏があるのではないだろうか。もともとアマゾンが出版社に求めている直仕入れでの取引条件は、6掛けといわれている。

biz-journal.jp

 これは取次に卸す出版社の正味よりも多分相当に安い。多分、買い切りをチラつかせて直取引を増やす。おのずとアマゾンの売り上げシェアが出版社の中で高まる。そうなったところで取引条件の変更を・・・・・。

 青息吐息の出版業界にあってアマゾンはある意味外圧黒船である。それが長きに渡る出版物の再販制を崩すことになるだろうか。確実にいえることは本の定価が上がるということじゃないかと思う。10%以上の正味ダウンをどこで吸収するかといえば、定価を上げる以外にない。ただでさえ物流経費が上がる一方である。制作原価を切り詰めることも、人件費のカットも限界がある。

 定価をあげれば正味を下げても対応は可能かもしれない。そして正味を下げればアマゾンは、リアル書店にはできないディスカウントを行ってくるだろう。

 そうなれば、大手ナショナルチェーンも同様に出版社との直取引に走る。一定程度の販売力があるから大量に仕入れ同様にディスカウントすることになるだろう。ほぼほぼアメリカと同様の出版販売になっていくのかもしれない。

 しかしそれでもあえて言えば、正味を下げようが、定価を上げようが、買い切りにしようが、本は売れるのかという疑問だ。多分、よりニッチな嗜好品として定価が高くても必要とする人は買うだろうという商品になっていくということ。

 もう出版物は大量販売されるものではきっとなくなっていくのではないかというペシミスティックな感想がある。

 アマゾンの「書籍買い切り」、多分まもなくリタイアする身としては、一読者としてなんとなく傍観することになるんだろうなと思ったりする。