『返品のない月曜日-ボクの取次日記』


東京堂書店限定復刊!!「返品のない月曜日」(井狩春男・著/ちくま文庫)刊行のご案内 | 東京堂書店 最新情報
 朝一番で都内で会議。終了後、東京堂に入ってびっくり。懐かしい本がワゴンセールされている。曰く、東京堂のみでの復刊だという。文庫を一書店でのみ復刊するというのはあまり聞いたことがない。最小ロット1000部くらいで買い取りだったのだろうか。
 なんとも懐かしい本である。実はこの著者のことを少しだけ知っている。一時期同じ会社にいて、仕入窓口担当のこの著者の斜め右後方で仕事をしていたことがある。この本の「好きな本、ベストテン」というコラムがあり、そこで幾つかの本が紹介されている、その中に、まだまともだった頃の青林堂の集大成として刊行された『木造モルタルの王国』が紹介されている。

 あの、雑誌「ガロ」の二十年史である。A5判で千二百頁という大冊。出た時に、友人などにすすめた本である。その一人が、買ったその晩に、明け方の三時までかかって読破したと言う。ボクは、少しずつ読んで、先日やっと終わった。

 多分、この三時までかかってというのが私のことである。『木造モルタルの王国』は確かに著者に勧められて購入した。そして三時までかけてすぐに読んだという話をして驚かれたような記憶もある。本が出た後で、書きましたねみたいな話をしたような気もする。まあ友人ではないが、仕事で絡むこともない後輩のような立場、時々話をしたようにも記憶している。
 著者の第二作の時には、ネタの提供ではないが永六輔のサイン本を貸したこともある。その本のサインされたページがそのまま使われていた。
 著者の井狩春男氏は神田村の専門取次で仕入窓口をしていた。手書きの情報紙を日刊で出し続けそれが話題を呼び、こうしたエッセイ集を出すにいたった。書店人で本を出す人はいたが、取次人で本を書いた多分初めての人だった。手書き情報紙を出しながら、取次という立場から出版系の軽いコラムを書き続けた。ある意味、取次業界のスターだった。
 いつもニコニコとされていて人柄の良い方だったが、著作をものにし、それが話題となり持て囃されたこともあり、批判や陰口も多かった。専門取次としての現業部門をやっている肉体労働系の人間からすれば、一人だけキレイごとの世界にいるようで、それこそ仕事もしないみたいな悪口もあった。仕入窓口、広報部分はきちんとこなしてはいたが、じょじょに執筆に軸を動かしていったようにも思う。
 社内だけでなく、出版社でも彼を持て囃す側とそうでない側があったようにも思う。彼を持ち上げるのは割合に新規系の出版社であり、そうでないのは専門書系の版元だったようにも思う。
 その後もいくつかの出版社からコラム集、ブックガイドをだした。ヌード写真集の評論家やカラオケについての本とかも出していたこともあったかと思う。ブックガイドの一つを私がその後勤めた出版社からも出した。あまり売れなかった。
 とはいえこの本に関しては処女出版として、取次人が日常を綴った部分、本の知識をわかり易いまとめた部分など、読み易く、本好きならなんとなくニヤリとさせられる部分もある。肩の力が抜けた好著といってもいいかもしれない。
 頁の最後に、「この作品は1985年11月29日、筑摩書房より「ちくまぶっくす61」として刊行された。」とある。そうかもう33年も前のことになるのかという感慨である。著者の井狩氏は1945年生まれ。団塊の世代のど真ん中である。多分、73くらいになるのだろうか。ワゴンには著者のコメントが寄せられた色紙がポップ代わりに飾ってあった。お元気なようでなによりだ。