http://www.buehrle2018.jp/
「絵画史上、最強の美少女(センター)」はさすがに過ぎるだろうとツッコミたくなるコピーである。おまけに美少女に「センター」のルビまでつける。コピーライターは秋元一派かなとつまらない推測までしてしまう。
しかしこのルノワールの「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)」は確かに数あるルノワールの肖像画の中でも五指に入る傑作だと思う。透き通るような少女の横顔、光を受けて広がる美しい髪、青みを帯びた白いドレス、印象派として括られることの多いルノワールだが、いわゆる印象派的作品を描いていた期間は割と短いと実は思っているのだが、この作品はまさしく印象派時代の傑作といえるかもしれない。
その他の作品でもマネ、モネ、シスレー、ピサロ、ドガなど印象派の巨匠の作品がこれでもか、これでもかと展示されている。さらに新印象派として括られるゴッホ、ゴーギャン、セザンヌのコレクションも豊富で、まさに眼福という感じである。
ビュールレはスイスの実業家で生涯を通じ絵画収集に心血を注いだという。いろいろ解説を読んでいくと、彼の商売は民生機器よりも軍事利用の部品等の生産と販売のようで、顧客はイギリス、フランスだけでなく、ナチス・ドイツとも大きな取引があったという。ちょうど第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて、各国が軍拡競争を続けていた時代であり、商売は儲かったんだろうなと想像する。その膨大な利益を絵画につぎ込んだという部分では、少しだけ微妙な思いもないではない。とはいえ彼の心眼は確かで、そのコレクションは印象派、ポスト印象派を中心に群を抜くものがあるとは思う。
戦後は財団を作りコレクションの維持保存に務めていたが、盗難事件などもあり、また独自に美術館を作り展示を行うことも難しかったようで、このコレクションはすべてスイスのチューリッヒ美術館に移管されることが決まっているという。この企画展の売りの一つが、ビュールレ・コレクションの全体像を紹介する最後の機会だということだ。数年前に同じ国立新美術館でチューリッヒ美術館展が行われ、スイス出身あるいはスイスで活躍したホドラー、セガンティーニ、ヴァロットンから印象派、エコール・ド・パリの画家たちなど多数展示されていてとても楽しいものだった。
ピエト・モンドリアンの作品なんかも初めて目にしたのもこの企画展だった。
いずれチューリッヒ美術館展はまたやってくることもあるかもしれない。その中には今回のビュールレ・コレクションも加わっているということになるのだろうか。
気に入った絵はたくさんあるのだが、とくにいいなと思ったのはこのへん。
<シスレー「ブージヴァルの夏」
<マネ「燕」