ムンクは日本では人気のある画家だし、特に「叫び」は大変人気がある。なのである程度混んではいるだろうと思っていたが、想像以上の混雑だった。
さすがに「叫び」の前だけは、立ち止まらないように監視員が誘導するのだが、それ以外は自由に観ることができるので、解説文をゆっくり読む人、カップルで絵の感想言い合ったりとかでまったく流れない。ここまで混んでいると車椅子のカミさんを放置できないので、本当にストレスが溜まった。
閉館間際になってようやく空いてから「叫び」「生のダンス」「マドンナ」など有名な作品を中心にゆっくり観ることができた。まあ超がつく有名な絵なのである程度は予想していたけど、凄い人だった。自分の中ではフェルメールの「真珠の耳飾り〜」に次ぐ混雑という感じだった。
それで作品はというと、自分のような年齢になるとなんだかムンクのような作品に魅かれることってあんまりないのかもしれないとか思ったりする。「叫び」や「生のダンス」、「死のダンス」のような作品も、ある意味神経症的な雰囲気、現代人の不安を表現したみたいなことなんだろうけど、これに共振するのって若い頃の心性なのかもしれないなどと思ったりする。
絵の表現についていえば、若い頃のムンクの習作的作品は写実主義的だったり、少しだけ印象派に振れていたりとか、ある意味時代の潮流の影響を受けていたのだと思う。そして例の「叫び」のあたりからは明らかにドイツ表現主義的である。ある意味ドイツ表現主義の代表選手がムンクなのかもしれないなどと思ったりもする。
さらにいえばその色彩感覚にはどこかフォーヴィズム的な部分もあったりもする。そしてこれは勝手な思い込みかもしれないが、さらにさらにいえば、彼の独特の揺れるような曲線には、浮世絵的な要素も感じられたりもする。ムンクもまたどこかでジャポニスムの洗礼を受けていたのかどうか。まあ単なるあてずっぽ的勘違いみたいなものだけど。
油彩画 (1893年) オスロ国立美術館所蔵
テンペラ画 (1910年) ムンク美術館所蔵
パステル画 ( 1893年) ムンク美術館所蔵
パステル画 (1895年) 個人蔵
リトグラフ (1895年) ムンク美術館所蔵
そしてそのへんのことはこのサイトに詳しい。
【作品解説】エドヴァルド・ムンク「叫び(ムンクの叫び)」 - Artpedia / わかる、近代美術と現代美術
さらにウィキペディアによれば、油彩画は1994年に盗難に遭い、同年に発見されていて、今回東美に来ているテンペラ画は2004年に盗まれ、2006年に発見されているのだとか。さらにいえばこのテンペラ画はかなりの損傷を受け、完全には修復できていないのだとか。「叫び」を巡る物語のネタは尽きまじという感じである。
そして最後に、以前も書いたかもしれないが自分はムンクの「叫び」を観るのはこれが初めてではない。ずいぶんと昔に鎌倉の神奈川県立近代美術館で行われたムンク展で「叫び」を観ている。いろいろ調べていくと、それは1970年の秋のことらしく、だとすると自分は中学二年生ということになる。当時住んでいたのは横浜の上永谷というところだったので、多分その頃の自分は鎌倉まで自転車で行ったのではないかと思う。
その時に観たムンクの絵ではやはりダントツで「叫び」の印象が強い。多感な中学生、今でいえばまさに中二病的な心根の自分には、あの不安と神経症、世界の叫び声に耳を塞ぐ奇妙な人物に共振する部分があったのだろう。
どういう経緯でムンク展を知ったのか、そして一人でそれを観に行こうと思ったのか、今となっては自分自身でもまったくわからないことだ。でも、その時の自分はこの絵を絶対観なければいけないと思うような、ある種の切迫したことがあったのかもしれない。まあ、今風にいえばまちがいなく病んでいたんだろう。
この時の「叫び」はおそらくオスロ国立美術館の油彩画だったのではないかと思っている。調べてみると開催概要はこんな感じ。
エドワルド・ムンク展:孤独な魂の叫び、北欧の巨匠
期間:1970.09.26~10.18
主催・協賛:神奈川県立近代美術館/東京新聞/中日新聞社/
さらにYoutubeで調べていくと当時のニュースフィルムなんかもあったりする。なんとも懐かしい。
【神奈川県立近代美術館】ニュース映像にみる神奈川県立近代美術館の65年
この動画を観ていると、「マドンナ」、「叫び」、「思春期」と三点が並んで展示されている。もの凄いインパクト溢れる展示だったんだなと改めて感心させられるのだが、「マドンナ」、「思春期」の記憶はまったくない。まあ48年前のことだから、これはもう覚えていなくて当たり前だろう。
展示はこういう形だったということを静止画像で確認した。
ある意味、自分は48年ぶりに異なるバージョンとはいえ、「叫び」にまた遭うことができたのだ。