アントニオ・カルロス・ジョビン「ストーン・フラワー」 

 アントニオ・カルロス・ジョビンといえば「The Composer of Desafinado Plays」(邦題「イパネマの娘」か「WAVE」のいずれかというのが普通。自分もほぼジョビンのアルバムといえばこの二枚をひたすら聴きまくってきた。「The Composer of Desafinado Plays」はヴァーブで1963年、「WAVE」はA&MCTIレーベルで1967年の作。両方ともクリード・テイラーのプロデュースで、アレンジはクラウス・オーガーマン。ジョビン、オーガーマン、テイラーはもう定番中の定番みたいなものだ。
 自分の場合、この二枚ともジャズ好きの兄に勧められて聴いた。多分、中学生くらいだったと思う。それからのつきあいだから、かれこれ50年近くになるんだろうか。改めて思うが兄にはけっこう音楽的には影響受けたんだな。
 それに対してこの「ストーン・フラワー」は1970年の作品。アレンジはオーガーマンからエミール・デオダードに変わっている。あの「ツァラツストラ」のデオダードだ。すでにブラジル音楽の大御所であり、ボサノバの創始者ともいうべき存在だったジョビンのアルバムを担わせることで同じブラジルの若いコンポーザー、アレンジャーを売り出そうという魂胆だったんだろうか。
 デオダードのアレンジは基本的にはオーガーマンのスタイルを踏襲しつつ、随所にブラジルの土着性やエレクトリックな風味を取り入れている。オーガーマンの完璧なイージーリスニング・ジャズとはいささか異なる部分もありつつ、ジョビンのオリジナリティや静的な部分を際立たせている。
 このアルバム、多分70年代には少なくとも何度かは聴いたはずなのだが、不思議と印象に残っていなくて、今回改めて聴いてみてなんとも不思議な印象、新鮮さを感じた。実際、こんな曲も取り上げているんだというような驚きというか。そういう意味じゃほぼ初めて聴くようなものかもしれない。大昔、何回か聴いたものなんてほとんど残っちゃいないのだから。

<収録曲>
1. テレーザ・マイ・ラブ
2. チルドレンズ・ゲーム
3. ショーロ
4. ブラジル
5. ストーン・フラワー
6. アンパロ
7. つばめ
8. 太陽の国の神と悪魔
9. サビア
<パーソナル>
アントニオ・カルロス・ジョビン(P,EL-P,G,VO)
デオダード(G,ARR)
ロン・カーター(B)
ジョアン・パルマ(DS)
アイアート・モレイラ(PERC)
アービー・グリーン(TB)
ジョー・ファレル(SS)
ヒューバート・ロウズ(FL)
ハリー・ルーコフスキー(VN)

 アイアート、カーター、ファレル、ロウズといった面々はいつものCTIのオールスター。デオダードがギターをやっているというのが珍しい。曲では「ブラジル」とかを取り上げているのがちょっと珍しい。さらにいえば表題曲の「ストーン・フラワー」、これジョビンの曲だったんだね。初めて知った。この曲というとどうしてもサンタナの「キャラバン・サライ」を思い出してしまう。あれはあれで斬新なものがあったから。
 という訳でこのアルバムは買いである。これからしばらくはあまり聴いていない70年以降のジョビンを集中的に聴いてみようかなどと思い始めている。まあ今はCDも安いし、1000円前後だとホイホイ買えるくらいの財力はある(やや淋しい)。だが、その前にサンタナの「ストーン・フラワー」を聴きたくなっている。あれも昔LPは持っていたのだが、CDはあったかどうか。探してみるとするか