北斎とジャポニスム展

 国会、神保町ブックフェスティバルといささか人混みに疲れたこともあり、神保町から上野へ移動、西洋美術館へ行くことにする。金曜日で今日は8時までやっている。6時近くになっていたので、さすがにこの時間になれば話題の企画展「北斎ジャポニスム」も空いているのではないかという目論見である。

http://hokusai-japonisme.jp/highlights.html
 予想通りというか比較的空いてはいるが、常設展に比べるとかなりの人である。入ってすぐの文献等の展示のところはかなりの列を成している。19世紀の浮世絵をとりあげた文献等がそんなに興味深いものかねと思いながら、そのへんは見ている人たちの肩越しに一瞥し、すぐに次の間に移動。先へ行くとじょじょにバラけてくる。このへんはクラーナハアルチンボルドと同じである。
 展示してある文献の中ではシーボルトの『日本』が唯一興味をひいた。
 葛飾北斎に影響された当時の画家の絵としては、ドガベルト・モリゾ、カサット、モネ、ゴーギャン、ボナール等の絵が多く展示してあった。国内の美術館からの貸し出し、海外からのものも多数あった。多くの作品には北斎の絵と関連付けるために北斎の絵が小さく並列してあった。当時、北斎の絵がどれだけ印象派を中心としたヨーロッパの画家達に影響を与えたのかが明瞭になるような展示である。
 印象派の画家達は、北斎の浮世絵、特に北斎漫画に描かれた人間や事物を、あたかも見本帳のようにして模写し、取り入れていったようだ。見本帳、あるいはネタ帳といってもいいかもしれない。その中でも一番面白いなと思ったのはポール・ゴーギャンのこの作品だ。
<三びきの子犬のいる静物

 子犬たちの線はゴーギャンらしい明確な輪郭線を持ちながら、明らかに北斎漫画の影響を見せている。平板でいながらユーモラスで可愛らしい表現。一方でその下の静物、白い布におかれた果物は間違いなくセザンヌの影響による多視点と強調表現だ。上部の三びきの子犬、真ん中に斜めにおかれた三つのガラスの食器、下側には布の上の果物、とても面白い構図だ。
 この絵は浮世絵表現とセザンヌの表現を大胆に取り入れて、写実性を排し、それぞれの事物の特徴を平板な表現の中に強調させた、ゴーギャンの実験的な作品なのかなと思った。展示された印象派の巨匠たちの作品の中でももっとも後に残る優れた作品だと思った。ようは気に入ったということにつきるのだけれど。
 展示作品の最後は北斎富嶽百景とそれに影響された西洋作品との対比。一つの山を様々な角度から描いたということでセザンヌの「サントヴィクトワール山」の連作を三作展示してあった。さすがにセザンヌ北斎から影響を受けたかどうかはわからないが、セザンヌが大トリであるところかさすがというという感じで、この企画展のセンスの良さを感じた。
 「サントビクトワール山」はワシントンDCのフィリップス・コレクション、セザンヌの晩年に描かれたブリジストン美術館、そして昨年も確か上野の森美術館に来ていたように記憶しているデトロイト美術館の三作だった。この三つの展示にはしばし見とれてしまった。本当に素晴らしい作品だ。