手抜き除染

最初に朝日が報じたのは1月4日の朝刊一面だったか。内容的にもスクープといっていいものだったと思う。

http://www.asahi.com/national/update/0104/TKY201301040001.html
「手抜き除染」横行 回収した土、川に投棄
「手抜き除染」の現場
 東京電力福島第一原発周辺の除染作業で、取り除いた土や枝葉、洗浄に使った水の一部を現場周辺の川などに捨てる「手抜き除染」が横行していることが、朝日新聞の取材でわかった。元請けゼネコンの現場監督が指示して投棄した例もある。発注元の環境省は契約違反とみて調査を始めた。汚染廃棄物の扱いを定めた特別措置法に違反する可能性がある。
【特別報道部から】除染の実態や労働状況について情報を求めます
■福島第一周辺、環境省が調査へ
 環境省は昨夏以降、福島県内の11市町村を除染特別地域に指定し、建物や道路、農地などから20メートル内の本格除染を始めた。それ以外に広げるかどうかは今後の課題だ。これまで4市町村の本格除染をゼネコンの共同企業体(JV)に発注した。楢葉町前田建設工業大日本土木など(受注金額188億円)、飯舘村大成建設など(77億円)、川内村大林組など(43億円)、田村市が鹿島など(33億円)。
 環境省が元請けと契約した作業ルールでは、はぎ取った土や落ち葉はすべて袋に入れて回収し、飛散しないように管理しなければいけない。住宅の屋根や壁は手で拭き取るかブラシでこする。高圧洗浄機の使用は汚染水が飛び散るため雨どいなどごく一部でしか認めていない。洗浄に使った水は回収する決まりだ。
 取材班は昨年12月11〜18日、記者4人で計130時間、現場を見て回った。楢葉、飯舘、田村の3市町村の計13カ所で作業員が土や枝葉、洗浄に使った水を回収せずに捨てる場面を目撃し、うち11カ所で撮影した。また、作業員約20人から、ゼネコンや下請け会社側の指示で投棄したという証言を得た。「作業ルール通りやればとても終わらない」との声も相次いだ。
 楢葉町の道路沿いの山林で働いた下請け作業員は11月27日、大日本土木の現場監督から刈り取った草木の一部を崖下に捨てるよう指示されたと証言。取材班はこの際の録音記録を入手した。大日本土木前田建設は取材に回答していない。同町では12月17日、2人が屋根やベランダを高圧洗浄機で洗い流し、水が飛び散る場面も撮影した。
 田村市で働いた4人は11月16、17日、下請けのリーダーから落ち葉や土を熊手で川にかき落とすよう指示されたと証言。取材班は同市の別の現場で12月14日に下請けのリーダーが自ら川岸にたまった落ち葉を足で蹴って川に落とす場面を撮影した。鹿島は「事実関係を調査中」としている。
 飯舘村では12月18日、駐車場の路面の高圧洗浄で使った水がそのまま側溝に流れ、川に注ぎ込んでいくまでを撮影した。大成は「確認中」としている。
 除染作業中に土や枝葉を捨てる行為は契約違反にとどまらず、放射性物質による環境汚染への対処に関する特措法が禁じる廃棄物の投棄(5年以下の懲役や1千万円以下の罰金)に触れる可能性がある。環境省は「事実なら重大な問題だ」とし、ゼネコン各社から事情を聴く方針だ。【青木美希、鬼原民幸】

その後も出るわ出るわ、除染作業の杜撰な内容は続々と報道される。ただしスクープした朝日に比べて読売や産経は温度差低い印象もある。普通は一紙スクープがあると、我も我もと後追い報道が続くものなのだが。
しかし除染作業に手抜きが横行するのはしかたがないのかもしれない。だってそんな技術もなにもきちんと研究してきていないのだから。これもまた原発安全神話の罪の一つなんだろうな。原発は絶対安心だから、放射能が漏れて広範囲に拡散し汚染されるなんてことはあり得ないから。だから除染とかの技術研究などする必要はありませんというのが、国、電力会社の立場だったわけでしょ。
それが今回の事故で広範囲に汚染され、それをどう除染していくかを早期に国策事業として行っていかなくてはならなくなった。でもノウハウもなにもない。結局は利権がらみの土木事業と堕してしまったということになるのだろう。
かって国会で東大の児玉教授が参考人として怒りの声をあげた。あのときにも児玉先生は除染をどう進めるかについての問題提起と疑義を提起されていた。

国策として土壌汚染を除染する技術を民間の力を結集して下さい。これは、たとえば東レだとかクリタだとかさまざまな 化学メーカー。千代田テクノルだとかアトックスというような放射線除去メーカー。それから竹中工務店なんか様々なところは放射線の除染などに対してさまざ まなノウハウを持っています。
こういうものを結集して現地に直ちに除染研究センターを創って実際に何10兆円という国費がかかるのをいまだと利権がらみの公共事業になりかねない危惧を私すごく持っております。

今となっては児玉先生の指摘通りの利権がらみの公共事業として進展している。ただしこの発言に対しても、ある人たちからすると国会の場で竹中工務店といった具体名を出すことで、東大教授=国家公務員として児玉氏が逸脱しているという非難をしている方もいる。
児玉龍彦センセは、御用学者?それとも工作員? - 美と健康のブログ 「実は・・・」本当のところ
実際、その後児玉先生が活躍されている南相馬市の除染事業430億を入札したのが竹中工務店や千代田テクノル等の共同企業体であったことから、それこそ鬼の首でもとったのかのごとく、利権屋呼ばわりしてさえいる。
http://blog.goo.ne.jp/eye_2007/e/eb16c0d725619fdf740737118c5ea859
http://www.nikaidou.com/archives/27893
結局のところ除染事業を進めるとすべては公共事業となり利権となるということか。児玉先生が述べていた現地で除染研究センターを創るとしても、どうせそれを推進するのは原子力村であり、そこから出てきた除染技術を担うのもまたゼネコンという図式でしかないのだろうから。
なぜなのか、そもそも除染の技術自体が3.11以前に確立されていなかったこと、それが総てなのだ。だからこそ何をやっても手抜きになってしまうだろうし、片手落ち、中途半端にならざるを得ないということなのだ。もっともゼネコンの中抜き、ピンハネは問題外のようにも思うけれど。
さらにいえば、とりあえずの便宜的な除染作業として、汚染された木々、葉、表土などを削り取ってもそれを保管する場所の確保がされていない。放射能に汚染物を保管場所はいつも中間とか一時的という冠がつけられる。ようや放射性廃棄物原発の使用済み核燃料の最終的な保管場所が決まっていないということなのである。だからいつまでたっても中間保管施設ということになる。結局すべてを先送りしてきた原子力政策の弊害の一つなんだろう。
福島でも汚染された飯高村あたりの谷を一つ丸々中間保管施設にする案だの、高濃度に汚染された福島第一原発周辺地区に大規模な中間保管施設を作る案なども進行中のようだ。
しかしいくら言葉繕っても結論は一つなのだ。中間とはイコールで永久ということだ。考えてみてよ、福島で汚染された土だの瓦礫だのをまとめて保管施設を作る。これだけでもどれだけの国費が投入されるのか。それをいつかのいつか日本のどこぞかに最終処分施設=保管施設を作った挙句には(これにも膨大な国費が投入される)、今の中間保管施設にあるものを全部穿り出して、移設埋設するということになる。もう天文学的数値の二乗、三乗みたいな世界になるんじゃないのか。
結局のところ原子力産業とか原子力政策というのは、単に先送りを繰り返していたんではなく、ようは何も考えていない。今がよければそれで良しということだけで成り立っているんじゃないのか。そしてとりあえずムダで意味のないものでも、それに税金投入できれば、そこで金が儲かるからというだけで、ことの良し悪し考え無しに進めていく。再処理事業とかがその典型なんだろう。結局未来にすべてを押し付けるみたいな、自覚的な悪を行っている訳でもなく、ただたんに今が良ければという刹那的な生き方に埋没してしまっているだけなんだよ。
ただね、もう何があってもとりあえずフクシマのこと、原発のことに関しては、国民というか我々の感覚はマヒしてしまっているんじゃないかと私なぞは思う。もう原発だの、汚染だので何があっても「フーン」みたいなことでスルーする。暮にそのへんのことを厭戦気分ならぬ「厭原気分」と命名してみた。ようはもう「原発」だの「放射能」だのはいい加減聞き飽きたっていうことなんだ。とりあえず収束しているかどうかわからないけど、落ち着いているんでしょ。じゃあいいでしょみたいな気分だ。そういう気分が総選挙でかって原発を推進し続けてきた政党を大勝させたんじゃないかと、私なんかは思っている。
そういう市民感情からすると、今回の「手抜き汚染」についてもまああんまり関係ないということ。原発労働でもけっこうピンハネだのなんのと報道されていたから、除染だって同じようなことが起きていても不思議じゃないでしょ。だいたい原発内で下請けやったり、除染とかやったりする人たちは日雇いとかそういうのばっかでしょ。だったら多少そういうことがあっても仕方がないでしょ。そんなことより自分たちの生活が大事なんだから。とりあえず安倍首相には頑張ってもらわなきゃ、みたいなこと。
出来れば私自身はこういう「厭原気分」で生活に埋没ということにならないようとは思っているけれど。