パッション,グレイス&ファイア〜情炎

先日、我が家のミニコンFILLの修理終了記念でアマゾンで購入したものがようやく届いてきた。海外からの新品だったが、わりあい早くに届いた印象である。
以前にも書いたことだが、LP盤は持っている。ただこの手のアコースティックな演奏は、意外とCDのほうがクリアかつソリッドな音が聴けるのではないかと思い、まあ愛聴盤でもあるので持っていてもいいかなと、軽い気持ちで購入クリックした。
しかし便利な時代になったものだ。ちょっと聴いてみたいなと思って検索すると即座に見つかる。おまけにワンクリックですぐに自宅に届いてしまう。おまけに安い、CD1枚が2000以下で軽く買える。いや価格破壊、デフレの世の中である、古いジャズものなどはたいてい1500円以下、海外盤にいたっては1000円以下でざらに出回っている。有難い世の中になってしまったものなのである。
さらにいえば、やはり経済的にも余裕ができているんだろうな。1000円、2000円の買い物であれば、なんの躊躇もなく購入できてしまうのだから。このへんはまあ年の功とでもいうべきなんだろうか。宮使いで30年以上も仕事していれば、ある程度の余裕もできるというものではないか。
ただしCDというかアルバムというか、なんていうのだろう、1枚1枚に対する思いいれとか有り難味がどんどんと薄れていく。昔々のことになるが、それこそ高校生の頃は1年に1〜2枚アルバムを買えればいいくらいだった。大学にあがっても、基本貧乏学生で学費さえアルバイトでまかなっていたくらいだから、あんまりレコードなど買えるようにはならなかった。
定期的にアルバムを買えるようになったのは、勤めに出てからだったな。それでも安月給だったから月に1枚買えればいいほうだった。ボーナス時期になるとバーゲンで3〜5枚まとめて買ったりしてたっけ。その頃のLPレコードはだいたい3000円以上だったかな。確か3300円が新譜の基本的な価格じゃなかっただろうか。あの3300円の根拠はいったいなんだったんだろう。ひょっとしたら33回転にひっかけた語呂合わせとかじゃないだろうな。
そしてよく購入したのが再発ものの廉価版。ペラペラのジャケットのやつで1500円前後でよく売り出していたっけね。
と、レコードとかの話しではなかった。スーパー・ギター・トリオによる唯一のスタジオ録音版である本作「パッション,グレイス&ファイア〜情炎」についてである。これはある時期本当によく聴いた。それまではフュージョン系の早弾きギタリストとしてアル・ディ・メオラのことはあんまり評価もしてなかったし、マクラフリンはただただ煩いギターみたいな印象で、しいていえばマイルスの「ジャック・ジョンソン」で、ロック系ギタリストもぶっ飛びのかっこいいギター演奏はけっこう好きだったかな。やっぱりジャズ屋はロックやらしてもスゲエと思ったものではあった。後はサンタナと一緒にやったアルバムで、コルトレーンの「ラブ・シュープリーム」やってるのとか、そのくらいの知識だったかな。
パコ・デルシアについていえば、たぶんフラメンコのギター弾きくらいの印象しかなかった。
本作については、たぶん最初に聴いたのはジャズ喫茶、行きつけだった横浜野毛のダウン・ビートだったと思う。びっくりしたね、この演奏には。所謂超絶技巧というのが体現された音楽とでもいえばいいのか。アコースティック・ギター3台によりインプロビゼーションである。基調はフラメンコテイストであり、ジャズというよりはワールド・ミュージックみたいな部類にはいるのかもしれない。
しかし、ジャズ、フュージョン系のテクニシャン二人(ディ・メオラとマフラフリン)が天才フラメンコ奏者とからむとどういうことになるか、その理想系がこの演奏にあるんじゃないかと思う。
最近の音楽シーンには疎いし、基本こと技術についていえば、若ければ若いほどすごいテクニシャンが数多出現しているから、今ではこの手の超絶技巧はたぶんさほど有難がることはないのだろう。でもこのアルバムを最初に聴いたときの驚きといったらないな〜という感じで、今でもそのへんのことはなんとなく覚えている。けっして最近のギタリストというわけでもないのだろうが、例えばマイケル・ヘッジスとか押尾コータローとかも、けっしてフォロワーではないにしろ、アコギによる超絶技巧演奏の可能性を広げるために、このアルバムやスーパー・ギター・トリオが果たした役割とか影響とかは相応にあるのではないかと思ったりもしている。
本作では、早弾き系のフラメンコ風の曲とエキゾチックで抒情的な曲がある種代わる代わる演奏される。個人的には2曲目の「ORIENT BLUES SUITE」が秀逸だと思う。いかにもディ・メオラ的な感じの曲である。6曲目の「PASSION,GRACE&FIRE」も大好きな曲である。本当にある時期はよく聴いた。ダウン・ビートでも何度もA面、B面とリクエストしたものだ。なんかその度にコアなジャズ好きの何人かは決然と席を立っていかれたなんてこともあったかとは思うが。
ネットで調べた限りではマフラフリンもデルシアもディ・メオラも存命のようである。一番年長のマフラフリンが70歳、デルシアが64歳。ディ・メオラは以外と若くて1954年生まれの54歳。なんとほとんど同世代なのである。ウィキペディアの記述によれば、最初のプロとしてのキャリアは以下のとおりである。

1974年にチック・コリア率いる「リターン・トゥ・フォーエヴァー」(RETURN TO FOREVER)に参加し、1976年の解散まで在籍。

私も彼の名を知ったのはリターン・トゥ・フォーエヴァーを通じてである。1974年って、ディ・メオラは20歳ということなるわけだ。早熟な天才だったわけだ。ある意味同世代のスーパーギタリストということになるんだな。そういう意味じゃたぶん聴いてきた背景となる音楽とかも割りと同じ部分もあるんだろうな、同世代ということで。ウィキにもビートルズヴェンチャーズを聴いていたみたいなことも書いてあるくらいだし。
ディ・メオラ、マフラフリン、デルシアの3人によるスーパー・ギター・トリオとしての活動期間はあんまり長くはなかったようだが、これ以降も何度かライブを行ったりしているようだ。しかし30年も前の作品になってしまうんだね。今後もときどきは引っ張り出して聴くことになるとは思う。
CDの薄っぺらいライナーによるとマフラフリンはヤマハクラシックギターでガット弦を使用。センターチャンネルから聞こえる。ディ・メオラはアコースティック・ギターでスティール弦。ユーチューブとかの映像とかでも確認したけれど、基本的にはピックを使用している。チャンネルはレフト。デルシアはフラメンコ・ギターでガット弦。驚異的な早弾きはフィンガーピッキングによる。チャンネルはライトである。
そうやってよく聴いてみると、うちのスピーカーではディ・メオラとデルシアの音が逆になっている。なんか修理から戻ってきたときにセッティングするときに間違えたみたいですな。早速直さないといかん。まあこのへんがなんちゃってオーディオたる所以でもあるわけだが。