北杜夫が死去

http://www.asahi.com/obituaries/update/1026/TKY201110260123.html
業務連絡的に取引先から電話があって知る。あらあらとそんな感じである。で、重版どうするみたいな話を少しする。先方曰く、「上の方は乗り気なんだけど、ここ数年動いていないから、出来ればしたくないな」。「そうだね、もう完全に過去の人だな。たぶん50以上の者じゃないと、北杜夫の名前に反応しないかもね」と私。「自分もけっこう読んだクチだよ。特に『マンボウ』ものは高校くらいのときにほんとど読んだ。思い入れ的には自分も重版してもいいかなと思わないでもないけど、でも商売としてはだいぶ弱そうだな」
電話を終えてからなんとなく「マンボウ」ものを読んでいた頃のことを思い返してみる。一番好きだったのは『どくとるマンボウ青春期』あたりか。旧制松本高校から東北大医学部に進むあたりの時代を描いたものだが、旧制高校バンカラな雰囲気がよく出ていて、けっこう憧れたものだ。高校時代、行けるものなら、金沢大学か信州大学にと思い込んでいた時期があった。金沢大はおそらく室生犀星五木寛之あたりの影響だろう。信州大学は明らかに『どくとるマンボウ青春期』の影響だな。
16〜17の頃はユーモア系をよく読んだ。北杜夫、古狸庵こと遠藤周作、SFだと星新一あたりか。そして作家の高校時代を描いた青春期。大好きだったのはこの北杜夫のものやムツゴロウこと畑正憲のエッセイや井上ひさしの初期の小説などなど。そんなことを思い返していると、不覚にも目頭が熱くなってきて困った。会社であるのにも関わらずである。
帰宅してから1冊くらい北杜夫の本がないかと本棚に目をやってみるがたぶん1冊も見つからない。何回かの引越しのどこかで全部処分してしまったようである。彼だけでなく、遠藤周作星新一も1冊もない。ムツゴロウも井上ひさしもない。まあそういうものである。55歳の本棚である、そんな青臭いものが揃っていては、それはそれでひどく気持ちの悪いものかもしれない。
こうなるともう一度、せめて『どくとるマンボウ青春期』くらいは読み返してみたいなとも思った。何気にアマゾンのサイトをのぞいてみると、ベストセラーランキングに『航海記』と『青春記』がランクインしていた。たぶん私と同じような心持のきっと50代のオヤジが少なからずいるということなのだろう。でもこうも思う、たぶん購入して本が届いてもきっと読まないだろうとも。いや数ページ読んでみても、少しも心が踊ることもなく、何の感慨も浮かんでこない、そんな気もしてならない。あれは16〜17歳の多感な時期だから受け入れられるものなのかもしれない。50代の心性にあの手の青臭いユーモアはどう映るか。
そんなことを考えてクリックするのをためらい、ページを終わらせた。
北杜夫、そんな作家が昭和の時代に存在した。父親の斎藤茂吉は国語の、文学史の時間に出てきたから名前だけは知っている。その息子が昭和時代に小説を書いていて、そこそこ成功していたらしい。そして82歳で亡くなられた。たぶん今どきの20代、30代の理解なんてそんなものなんだろうな。
北杜夫さん、冥福を祈ります。

どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)

どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)

  • 作者:杜夫, 北
  • 発売日: 2000/09/28
  • メディア: 文庫