原発とストレステスト

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110706/t10014028081000.html
いよいよ菅政権は、いや菅首相脱原発にシフトしたのかもしれない。ストレステストがどの程度の厳密さで行われるのかわからない。EU並みのレベルできちんと行われるとすれば、老朽化が著しい日本の原発が基準をクリアできるのかどうか。もっとも行うのが経産省とたぶんそれぞれの電力会社だろうから、いつもの手抜き、隠蔽でとりあえずやり過ごすだろうことは簡単に想像できる。
ある種唐突に打ち出したストレステストについては案の定非難、批判が集中している。またまたいつもの菅パッシングだ。知能犯的な物言いは、ストレステスト自体には反対しない。ただし唐突に持ち出すことが問題である。なぜもっと早期に打ち出さなかったのか。きちんと手順、段取りを踏んだうえで持ち出すべきではないか、などなど。なるほどそれぞれもっともらしく聞こえる。浜岡の時とまったく同様である。浜岡を停めることには反対はしない。なぜ浜岡だけなのか、なぜ唐突に浜岡だけを、などなど。
そのうえで、菅の思いつき発言であるとか、延命のための新たな策であるという例のパッシングである。しかし、それではいったい誰が停止中の全原発へのストレステストの実施を実行できるか。もっと時間をかけて、段取りを踏んで、それではいつやるのか。いずれ来る可能性の高い東海地震震源地上に立地する危ない原発の代名詞とでもいうべき、浜岡の停止をきちんと段取りを踏んで行える政治家がどこにいるのか。
電力権益の中枢である電力会社、経産省の連合体が、原発を停止に導く施策の段取りを認めることが現実的に可能だと思うか。まず初手からつぶしにかかるに決まっているではないか。なぜもっと早くに打ち出すことが出来なかったのか。経産省を中心とした勢力がそれを許さなかったのだと思う。
3.11以降フクシマの状況、情報は隠蔽され、小出しに出されてきたことへの菅政権、民主党政権への批判が強く言われている。でも、情報を隠蔽し、小出しに小出しにしてきたのは東電であり、経産省なのである。原発の安全を管理し、電力会社に対して規制を行う所轄官庁が、原発を推進する官庁でもあるということが結局のところ総てなのだ。政権交代にあってもそれに依拠せざるを得ないという一点で民主党政権は批判されるべきかもしれない。
当初メルトダウンはなかったと政府発表し、後から東電が出してきたことを追認する形で、結果としてメルトダウンが起きていたことは疑う余地なしとしたことに対して、政府は大きな責任はあるだろう。でもそれもこれも東電と経産省の合体による隠蔽工作であり、ようはそれに対峙できない政権であったということだ。
菅のぶち上げが常に唐突な形であるのは、タイミングに問題はあるにせよ、経産省に対する弓引きである。ようは官邸と経産省の暗闘が突出した形で表面に現れてきているということだろう。
菅がもともと反原発脱原発だったわけではない。その時々で聞き覚えの良い施策に飛びつくだけの、ややもすれば軽薄な政治家なのかもしれない。それでもいい、とりあえず彼が脱原発に本気でシフトしたのなら、当面は彼を支持していくしかないと思う。少なくとも菅直人以外に、誰が浜岡を停止させることができたのか。そして来春にも全原発が停止となる可能性すらある、停止検査中の全原発へのストレステストに誰が言及できたか。
原発を巡る状況はもはや一刻の猶予もなしだと思う。54基の原発はすべてフクシマの現実を引き起こす可能性があるのである。いったん電力会社や経産省のいう想定外の事がおきたときには、取り返しのつかないことになる。使用済み燃料の保管、廃棄もまたなにも目処がたっていない。
フクシマによって引き起こされた放射能汚染は、今後どういった形で影響が起きるのか。出来れば考えたくないことなのだが、5年後、10年後に甲状腺ガンに罹患する若者たちが多数出てくることだってありえるのである。
なんどでも言おう。菅が脱原発に本気でシフトするなら、それを支持しておく。願わくば彼の姿勢が腰砕けにならないように。昔からの彼の行状を見知っている世代だから、真から信じるのは正直しんどい部分もあるにはあるのだが。