渚にて

渚にて [DVD]

渚にて [DVD]

  • 発売日: 2006/11/24
  • メディア: DVD
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原発放射能への関心からということもあるのだろうが、久々に観た。以前に観たのはたぶん10代の頃のことだろうから、おそらく30数年ぶり、あるいはもっとかもしれない。
核戦争により地球全域が放射能に汚染されて壊滅した世界。唯一汚染から逃れた人々たちがいるオーストラリアが舞台。しかしそこもまもなく放射能の汚染が始まる。まもなく滅びてしまう人々の諦観に包まれた生活を静的に描く。核戦争をメインテーマにした映画であり、軍人たちの生活を描きながら、戦闘シーンが一切ない不思議な映画である。
死を目前にした人類が、果たしてこんな風に穏やかに最後の日々を過ごすことができるのかどうか。暴力や略奪、無軌道な、あるいは自堕落な行為に走ることがないのか、ややもすれば疑問に思う。この映画に描かれる人々たちは、あるいは人類の理想像ともいうべき理性的な、あまりにも理性的でモラリスティックに描かれている。
なぜかくも穏やかな人々たちが、同時に核戦争による破滅へと導いた人類の最後の生き残りであるという部分に、ある種二重のアイロニーが込められているようにも思う。
主演はグレゴリー・ペックエヴァ・ガードナーフレッド・アステアアンソニー・パーキンス。典型的な二枚目俳優ペックと同様に典型的な美人女優ガードナーに往年のミュージカル・スター、アステアを配して、ほとんどメロ・ドラマのごとくに進行させるところもまた別種のアイロニーというか、微妙な異化効果とでもいうべきものを感じさせる。
監督は社会派の巨匠スタンリー・クレーマーである。この人は、シリアスでショッキングなテーマをきちんと娯楽一級作に仕上げることができる職人的な監督という記憶がある。日本語のサイトでは彼の全作品のきちんとしたリストがなかったので、向こうのウィキペディアから引用してみる。

As director
    Not as a Stranger (1955)
    The Pride and the Passion (1957)
    The Defiant Ones (1958)
    On the Beach (1959)
    Inherit the Wind (1960)
    Judgment at Nuremberg (1961)
    It's a Mad, Mad, Mad, Mad World (1963)
    Ship of Fools (1965)
    Guess Who's Coming to Dinner (1967)
    The Secret of Santa Vittoria (1968)
    R. P. M. (1970)
    Bless the Beasts and Children (1971)
    Oklahoma Crude (1973)
    The Domino Principle (1977)
    The Runner Stumbles (1979)
As producer
    Champion (1949)
    Home of the Brave (1949)
    The Men (1950)
    Cyrano de Bergerac (1950)
    Death of a Salesman (1951)
    High Noon (1952)
    The Sniper (1952)
    The Member of the Wedding (1952)
    The Wild One (1953)
    The Juggler (1953)
    The 5,000 Fingers of Dr. T (1953)
    The Caine Mutiny (1954)
    Pressure Point (1962)
    A Child is Waiting (1963)
    It's a Mad, Mad, Mad, Mad World (1963)

「手錠のまゝの脱獄」「ニュールンベルグ裁判 」「招かれざる客」などまさに社会派の巨匠と呼ぶにふさわしい名作がある一方で「おかしなおかしなおかしな世界」や「 サンタ・ビットリアの秘密」といった抱腹ものの喜劇も作る。素晴らしい映画監督だと思う。個人的には、落ちこぼれの少年たちが狩猟用に飼育されているバッファローを助けようとする「動物と子供たちの詩」が大好きである。悲劇的な結末とカーペンターズの歌う主題曲が忘れられない。