菅首相退陣問題

ここのところの内閣不信任案だの、菅首相の退陣を巡るぐだぐだには、ほとほと呆れかえっている。
ただし個人的には今回の件、もっといえば3.11以後の対応についていえば、菅首相と内閣に対してはきわめて同情的である。はっきりいうけど、3.11の震災、原発対応なぞは、正直誰がやっても五十歩百歩だと思う。小泉がやろうが、麻生がやろうが、谷垣がやろうがである。さらにいえば、鳩山がもし総理大臣だったら、さらに混迷していたであろうとも思うし、政局命の小沢がやっていても、たぶんろくな進展はなかっただろうとも思う。
あの地震を埼玉にいて体感した私なんかでさえ、五十数年間生きてきてはじめて体験する揺れなのである。東北一体でマグニチュードで6強の揺れとその後すぐに襲ってきたあの津波である。東北の沿岸地域が壊滅状態になってしまったのである。きわめて広範囲に渡ってである。おまけにフクシマの原発である。
さらにいえば、国の機能として、日本が誇る官僚組織は、東電とグルになって、原発事故対策よりもなによりも、これまで進めてきた原発政策の維持のための施策を最初にうったと思っている。時の政府がどうのということではなくだ。あるいはそれに民主党政権も乗らざるを得なかったかもしれない。これは想像だけれど、原発に深刻な事故が生じた時には、とにかく間髪入れずに計画停電に打って出る。それにより原発への批判をすりかえる。そういうマニュアルが経産省と電力会社の間にはあったのではないかと、そんな疑いを持ってしまう。
まあいい、3.11以降の政府の失態は、まんまこの国の力量なり、市民社会の形成しきれていない実態を示しているだけなのである。
なのにとにかく菅政権が悪い、菅が辞めなくては、なにも協力できないというのは、どういうことなんだろう。もちろん菅直人の限界はある。能力的にも、政治家としても凡夫な男だろう。でもそれだけで、すべてのことに、政府の一切合財に対して賛成できないというのは、単なる政治戦術、しかも政局的な形のそれでしかないのではないかと思う。
私なんぞは思う。とにかくなんでもかんでも菅のせいにして、東電への批判、あるいは原発への批判の声を摩り替えてしまえ、そういう動きが裏で進行しているのではないかと思う。さらに思う。菅が浜岡の稼動を中止させて以降、菅に対する個人的な批判の声を野党は高めていないか。菅が原発に変わる自然エネルギー発送電分離に言及して以降、より菅批判が増していないかどうか。
反菅キャンペーンの裏では原発シンジケートみたいな日本のエスタブリシュメントの意向が働いていないか、なんかそういう謀略史観めいた思いがしてならないところがある。
もっとも菅直人はたいていの場合、思いつきやら、人から聞いたことをすぐさま公然と語っているだけ、そういうおっちょこちょいな性格な男だとは思っている。浜岡だって、それほど考えてもいなかっただろうし、自然エネルギーもおそらく孫正義の受け売りのはず。発送電分離も誰かの入れ知恵なんだろう。でもここ一月くらいの彼の発言は明らかに、反原発にシフトしつつあり、総理大臣としてはやっかいというか、ややもすれば危険な男になりつつあったのかもしれない。そう、彼はパンドラの箱を開けそうになった。だから反菅キャンペーンが燎原の火みたいなことになってきたのだろう。
しかし反菅キャンペーンの無茶苦茶ぶりといったらどうだ。普通、総理大臣に対して無能だから辞任しろと迫った場合には、次に誰がなるのかという、あるいは次は私がやるという、対立候補がいなければならないはずだろう。野党自民党菅内閣に総辞職を迫り、解散総選挙で政権を取り戻すという戦略があったか。谷垣はただひたすら、菅に辞めろ、お前がいる間は一切協力しないとだけ言い放つのである。それでは誰だったら協力するのか、それがないのである。
民主党内の反主流派はどうか。小沢一郎はとにかく反菅である。しかし菅を辞めさせた後の絵図面がきちんと描かれていないのである。自身の金の問題で起訴間近の小沢は自らが菅の後に座ることができない。かといって彼の傀儡のなる男はいるか、例えば鳩山のような男が。たぶん唯一そうなりそうな男が原口あたりか。だとすれば、それをきちんと主張し、原口を後継にするとして菅打倒を訴えればいいのである。なのにそれが出来ず、野党の内閣不信任案に乗ろうとする。
かって竹下派の跡目相続に敗れ、破れかぶれで宮澤政権に矢を弾いたのと同じ図式だった。小沢が描いた図面は、内閣不信任案を可決させ、それに乗じて民主党を割って出て自公との連立政権樹立あたりか。あわよくばそこで東北復興担当の国務大臣となり、自らの政治資金問題を不起訴に持っていき完全復権と、復興マネーを手に入れる。おそらくそんなところだろうか。
まあいい、どうせ政局屋、権力亡者の小沢一郎である。それよりも始末に悪い男が一人いた。鳩山由紀夫である。昨年、菅以上になんにも出来ず、嘘も方便とばかりに沖縄普天間基地問題では、自らの最低でも県外移設という発言に縛られて迷走、辞職した男である。そのときには次の選挙には出ないと、さながら政界引退まで示唆した男が、フィクサーのごとくしゃしゃり出てくる。おまけに現役総理大臣に辞任を迫り念書めいた覚書まで取り交わし、そのことをペラペラと公然と語る。
いいか、政治の世界ではそうした念書はすべて闇の中で流通させるものなのだ。さらにいう、一国の総理大臣に辞任を迫り、その時期を確約させ、それを公然と発表する。お前は何様なのだ。さらにいう、もしそれを確約させたとしても、公表したらその政権は即ち死に体になってしまうだろう。権力が劣化してしまうのである。だから絶対に公然とさせてはならないのだ。こいつには権力、政治というものが一切わかっていない。
推測するが、おそらくこの男の頭の中には、もともと民主党は自分の金で作ったもの。自分はこの政党のオーナーであるという意識が抜けないのだろう。しょせん金持ちの凡々だ。さらにだ、菅と小沢が争った民主党代表戦で、たぶんこの男は小沢から、自分が総理になれば外相として動いてもらうみたいな甘い囁きを受けたのだろう。総理としての責任は果たせなくても、世界中のトップと歓談、折衝するのであれば、血筋、毛並みも抜群で英語もできる自分なら適任だろうと、たぶんそんな勘違いでもしたのではないか。なのに、菅は自分をちっとも厚遇しない。民主党を作った自分を厚遇しないあの男は許せない。おそらくそんなことなんだろう。
そんあ私怨ではなく、民主党及び国を思って菅批判を繰り広げるというのであれば、きちんと後継候補を示さなくてはいけないのだが、鳩山にもそれがないのである。自分が影響力を行使できる後継候補を示すこともなく、ただただ現役総理大臣に辞任を迫る。政治家としてはきわめて不見識な輩だと私は思う。
さして能力もない、たぶん政治家としては確実に二流であろう菅に同情せざるを得ない政治状況。悲しいことである。どうせなので、菅は最後屁よろしく、原発廃止を謳いあげてはどうか。次の人間の足枷になるような、3.11以後、脱フクシマへの提言となるエネルギー政策の転換とか、発送電分離とかを宣言しちゃえばいいのだ。一国の総理大臣、まあ日本の一応は元首にあたるんだろう、そういう人間が世界に向けて発信したことは重いはずだ。次に誰がなるにしろ、あるいは次の総選挙で政権交代になっても、それは足枷になるはずなのだから。
頼むぜ菅さん。どうせ辞めるんだから、最後にぱっと打ち上げ花火なんかどう。