神戸・書店再訪

神戸、三宮を訪れるのは何年ぶりのことだろう。10年とかそんなレベルではない。もちろん震災のずっと以前のことだ。おおよそでも20年近く前のこと。
神戸を観光で訪れたことは多分一度もない。30代の半ば、出版社の営業をやっていた頃、関西にはだいたいにおいて二ヶ月に一度くらいの割合で訪れていた。いわゆる書店営業というやつである。
限られた日程のなかで訪問書店の店数をこなさなくてはならない。神戸はたいてい半日コースだったように記憶している。朝一で入るか、午後早めに入ってなど。午後に入るときは、たいてい最終日で、最後の書店訪問を終えてから、タクシーで新神戸駅に向かい新幹線に乗って帰朝するみたいな感じだったか。
神戸で回るのはだいたい三宮から元町にかけて。ジュンク堂の2店舗、元町の路面店を数店、あとはデパートにある書店などだったか。そういう懐かしさもあってか、三宮のセンター街とかを歩くと、人ごみの多さには特に驚きもしないのだが、なんとなく当時の自分のことを思い出したりして懐かしさを憶える。
仕事で回っていたのであまり余裕もなく、だいたいにおいて憂鬱な思いで歩き回っていたのだろう。もともと本屋で過ごす時間が多い少年時代を送った。それがこうじて書店に勤めたりもした。しかし書店で日がな一日漫然と時間を過ごすのが好きな人間にとっては、そこを商売の糧にするというのは、あまり理想的なことではなかったようにも思う。
一生懸命に書店員に自社の本を勧めたり、つまらないジョークを言ったりしてとにかくコミュニケーションを図る。ようは営業なんだけど、今思うにそういうのはあんまりむいてなかったな。自分も書店員していたからわかるけど、出版社の営業員の訪問というのは、けっこうわずらわしかったりもする。貴重な時間をわざわざ割いてだよ、たぶんあまり売れないだろう売り込んでくる本の話を聞いて、おつきあい程度に注文を出す。そんな感じだったから。
そういうのがわかるから、あんまり積極的に売り込みとかしなかったし。で、そういう姿勢でいるから、書店員からしても、「こいつあんまりやる気なさそう」みたいに映ったもしたかもしれない。あと、けっこう露骨に出版営業を悪し様にする書店員もいたりしたしな。
そんなこともあって、家族連れの観光なのに、なんとなくセンター街を歩いては2〜3店の書店に入ったりもする。個人的な感傷旅行みたいな感じ。ほんでもって、神戸の書店といえばやっぱりここになるんだな。

まあここの店員さんは、みんな親切にしてくれたし、ときには厳しく、ときには親身に対応してくれた人は、その後は都内の大型店で店長になられたりもした。現在は2Fから5Fまでのようだが、昔はB1によく訪問した。店内に入ると、なんとなくこの書店独自の雰囲気があってなんとも懐かしい。
その後も元町をぶらぶらする。丸善はとっくに閉店してしまったようだが、海文堂が昔と同じ趣のままあったのが懐かしかった。まあ、営業とかからもここの名物担当者のこととかの話はときどき伺っているから、今さらどうのということもないのだが、やはり20年ぶりというのは懐かしい。
妻や子どもを連れてなので、店にいる時間はせいぜい10分程度だっただろうか。いつかもっと時間をかけてこの街の本屋を、仕事ではなくてぶらつきたいと思う。