日本への礼儀

昨日も書いた『世界5月号』に掲載されていた韓国の詩人高銀(コ・ウン)氏の、震災について書かれた詩文である。もともとハンギョレ新聞2011年3月15日に発表されたものを転載したものだという。
不覚にも涙した。地震で大きな被害を受けた被災者への、隣国の詩人からの深い共感の思いがダイレクトに伝わる美しい詩である。

日本への礼儀
   高銀 訳=青柳優子

どうして あの空前絶後の災難に
口をあけ
空言を吐けようか
どうして あの目の前のまっ暗な破局に
口をつぐみ
顔をそむけられようか
なすすべもなく ただただ画面を見つめる
何千とも
何万ともわからぬ 日常の善良な生命(いのち)のむれ
もはや生きられぬ
母さんも
赤ちゃんも
じいちゃんも 押し流された
父さんも
姉さんも 友だちも 汚泥の山のどこかに埋もれた
あんなにも大事にしていた あたな方の家
みな流れていった
船が陸(おか)にあがってひっくり返り
車がおもちゃのように流れていった ミルクも水もない

人間の安楽とは いかに不運であることか
人間の文明とは いかに無明であることか
人間の場とは いかに虚妄であることか
あの唐山 あのインドネシア
あのハイチ
あのニュージーランド
今日ふたたび 日本の事変で
人類は 人類の不幸で 自らを悟る

しかしながら 日本の今更にうつくしい
決してこの不幸の極限に沈没せず
犯罪も
買占めも
混乱もなく
相手のことを自分のことと
自分のことを相手のことと思い
この極限を耐え抜いて ついにうち克つ

今日の日本は
ふたたび明日の日本だ

わが隣人 日本の苦痛よ その苦痛の次よ
いまの日本をもって
のちの日本 必ずや立ち上がらん
       
            世界5月号26〜28P