「告白」

告白 【DVD特別価格版】 [DVD]

告白 【DVD特別価格版】 [DVD]

  • 発売日: 2011/01/28
  • メディア: DVD
これもTSUTAYAのレンタルで観た。
原作も読んでいたし、劇場での予告編とかを何回か観ていたこともあり、ずっと気になっていた映画だ。なにより公開後かなり話題になったし、邦画としてはけっこうヒットしていることも知っていた。
で、どうっだったかって。傑作だと思う。演出、テンポ、役者の演技、映像、どれ一つとっても穴がない。原作自体が衝撃的なお話だし、冒頭での「この教室に私の娘を殺した犯人が居ます」という告白からぐいぐいと読者を引っ張っていく。そのお話を映画はよりリアルに描いている。
もともとのお話が、登場人物のモノローグで、視点を少しづつ変えながら、核心に迫っていくという形をとっているのだが、ややもすればぶつぶつ、切れ切れになっているような印象を受ける。それが映像化の中ではスムーズに処理されている。
例えば、北原美月の告白から渡辺修也の告白に切り替わるところ、二人が学校の廊下ですれ違うシーンで表現する。前方から歩いてくる北原と渡辺はすれ違い様に人目につかないようにしてタッチする。そこからモノローグは渡辺に移る。こういう何気ない映像処理が凄いわけだ。
小説のほうはというと、お話自体はたいそう面白いのだが、途中けっこうダレる。モノローグで、なにも小難しいことを展開しているわけでもないのにダレるのは、ひとえに文章力かなとも思わないでもない。
話は違うは「失われた時を求めて」とかのモノローグは、文章力がどうのこうのいう前に、延々と脈絡があるのかないのかわからない事柄が続いていく。あの意識の流れとかというのは、もうお手上げみたいな感じになるが、ああいうのとは違うダレなんだな、「告白」のそれは。まあ余談にもなんにもなりゃしないけど。
話は戻る、そういう原作のもつもたつきが、この映画には一切ない。中島監督はこれまでの作品の中では、けっこうユーモアとか遊び部分を忍ばせていたりもするのだが、この映画に関しては一切それがない。緊張の糸を張り詰めたまま、一気にラストまで引っ張っていく。この力量は半端じゃない。
結論的にいえば、この映画は完全に原作を凌駕している。原作、しかもそれがベストセラー小説なんかだと、所謂原作負けみたいな感じになったり、ただただ忠実にストーリーを再現してみたいなことになるのが一般的なのだが、この映画に関してはまったくそういうことはなかった。
映画の質、作りとしてはまったく異質ではあるが、たいしたことのない原作とか、掌編みたいな小説から、見事な映画世界を作っちゃう映像作家というと、例えばヒチコックとか、ワイルダーとかを思い出す。中島監督の「告白」には、なにかそういうものを想起させるくらいの完成度の高さを感じる。
役者さんたちでは、女教師役の松たか子はやっぱり凄い演技していたと思う。彼女のモノローグは最初、ちょっと聞き取りにくい部分もあったりもして、どこととなく力ないかなと思わない部分もないではなかった。しかしそれが彼女が引き起こしていく復讐劇とのギャップとなっていて、別の意味でインパクトを醸し出しているようにも思った。淡々としているだけに逆にルサンチマンの業の深さみたいなものが浮き出てくるみたいな感じかな。
中学生たちはみなオーディションで選ばれたということらしいけど、みんないい。まあ彼らの魅力がうまく引き出されているというのは、一にも二にも監督の演出力なんだろうけどね。
最後にこの映画は基本、復讐劇である。そしてハードでシビアな現代にあっては、もう善意とかそういうものは現実面では死後になっているんだよ、世の中はたいへんシビアなんだということを子どもたちの世界を通してえらくビビッドに描き出していると思う。
ある意味じゃ子ども世界は本当に困ったものになりつつあるんだろう。純真な良い子たちと、子どもは未来の宝とか、なんかそういうのはもう幻想なんだろうなと、まあそういうものを突きつけてくる。
子どもたちの世界がえらく荒廃したものになっているのは、たぶん大人世界がまんま投影されているからなんだろう。大人世界はいくら荒廃しようが、利害関係によって規制がかかるから、まだなんとかなる。でも子どもたちには大人社会のルールだのによる調整とは無縁だろう。もちろん子ども世界も利害関係がメインテーマになっているだろう。でも所詮子ども世界である。経験則のない彼らはすぐに先鋭化させてしまう。
いじめだのなんのという教育現場での様々な問題は、たぶんそうした背景にあってのことなんだろう。この映画、あるいは原作がつきつけているのは、そうした現実をより露悪的に描き出す、抉り出すと、まあそんなことなんじゃないかと思う。
な〜んてね。