愛が微笑む時

タイトルもストーリーも覚えていない。なんとなくこんな映画を観たことがあるというかすかな記憶だけが残っている。そういう映画がいくつもある。そのうちの1本だったのがこれ。記憶的には、1950年代っぽいアメリカの都会的雰囲気、バス、4人の守護霊にとりつかれた子ども、ハートウォーミング・コメディ。そんな感じである。
映画を観たシチュエーションも覚束ない。ただしはっきりしているのは、試写会で観たこと、女性と一緒に行ったこと、などなど。ただし試写会場がどこだったのかもわからない(たぶん銀座のどっかではないか)。女性はたぶんガール・フレンドの誰かではないかとは思うのだが、特定不可能。ただし、この映画の公開時期は1993年だということなので、妻である可能性も否定できない。まあいいや。
そういう裏覚え映画の一つなのだが、以前から気になっていていつかもう一度観たいと思っていたのだが、いかんせんタイトルもわからないので、レンタルとかでも探しようもない。レンタルの場合、とりあえずタイトルとかで手にとって役者や監督をチェックして借りるというのが、きわめて基本的な衝動借りのパターン。知っている監督、知っている俳優、女優とか、それ以前に、おっ、この映画知ってる、知っている、なんかでレビュー見たみたいな感じである。
しかし正直いって、この映画のタイトルは・・・・。「愛が微笑む時」である。このしょうもなさ、絶対に手にとらない。これはあかんだろう、というタイトルである。今回、手にしたのは本当に偶然である。例のTSUTAYAの企画である「100人の映画通が選んだ本当に面白い映画」である。この棚をつらつら眺めるのはけっこう楽しい。70年代、80年代でけっこう見逃しているB級ものとか、もう一度観たいものなどを落穂拾いするのに最適みたいな感じだから。
今回もこの棚を見ていて、店員が書いたような手書きのポップにハートウォーミング・コメディで、4人のゴーストがみたいなことが書いてあったので、ひょっとしてと思い手にとったのである。そうしたら、ピンポーン、あの映画じゃない、これはみたいなことで借りてきたわけ。TSUTAYAのこの発掘良品の企画がなくて、しかも店員の書いたポップがなければ、たぶん生涯巡り合えなかったかもしれないと。まあそんな大袈裟なものでもないか。
映画はたまたまバスに乗車していて事故にあい死んでしまった4人の男女が、なぜか天国にいくこともなく、事故現場の近くで生まれた男の子に取り付いてしまう。小さい時は男の子をあやしたりして一緒に遊んでいたのだが、大きくなるにつれ他の人には見えない幽霊と一緒に遊ぶ子どもは問題児とされかねなくなったため、幽霊たちは姿を見えないようにして、それからも子どもの背後霊として過ごす。
子どもは成長して銀行員になる。幽霊たちは相変わらず子どもには見えないまま背後霊をしているのだが、そこに事故を起こしたバスが戻ってきて幽霊たちについて天国からの迎えが来たことを告げる。そこでなぜ幽霊たちが長い間地上にとどまっていたのかがわかることになる。
幽霊たちはたまたま乗り合わせたバスで事故にあって死んだ。小さな子どもを残した母親、恋人にあいにいく途中の若い女性、大勢の観客の前で歌うことを夢見ている売れない中年の歌手、子どもが大事にしている切手を盗んだことを後悔している不良。彼らはみな現世に大きな未練を残している。神様は彼らの未練、生前思い残していたことを、子どもに乗り移ることで果たさせるために、彼らを地上にとどめておいたのである。ただ手違いで彼らにはそのメッセージが伝わらなかった。
4人の幽霊はお迎えにきたバスを待たせて、成長した銀行員の若者の前に現れて、自分たちの思いを果たすために彼に手伝うよう説得する。そして最後にはそれぞれの現世に残したたことを果たして天に召されていく。若者をそれを通じて幸せにと。まあありがちなお話だし、映画としての出来もどちらかといえば今ひとつなのだが、どこか心に残る映画なのである。
観直してもその感想はそのまま。ラストはなんとなくウルウルとしてくる。いい加減で調子のよい青年に育った銀行員の若者を演じているのは、いまや「アイアンマン」とかのヒットで売れっ子スターとなっているロバート・ダウニー・Jrである。
心のどこかに残っているけど思い出せない、そういうものが人生を経年してくるにつれてどんどん増えていく。それらの多くはたぶんそのまま思い出せないまま、ある種の心的ひっかかりみたいな状態でいる。あるいはいずれ本当に忘却の彼方にということになってしまうのかもしれない。だとすれば、この映画のようにまた巡りあうことができたのは幸福なことなのかもしれない。
ある種の思いとして残ったままのことがら、思い残したことがらを果たすことができる。なんとなく映画の主題につながるではないかと、無理やり関連づけてみる。まあいいか。でも「愛が微笑む時という邦題」はやっぱりないと思うぞ。原題は「Heart and Souls」だとか。普通にheart and soulなら「身も心も」とか「心のよりどころ」とか「核心」とか「一生懸命」とかの意味なんだろうけど、このタイトルはsoulsだから。やっぱり普通に霊魂たちみたいなことなのかな。ままいいか。