アーサー・ペン死去〜俺たちに明日はない

アーサー・ペンが亡くなったという記事を新聞で読んだ。
http://www.asahi.com/obituaries/update/0930/TKY201009300106.html
 88歳、いい年である。アメリカン・ニューシネマを代表する監督の一人だった。ウィキペディアの代表的な監督作品をそのまま引用する。

    * 左ききの拳銃 The Left Handed Gun (1958)

          テーマ:ビリー・ザ・キッド 主演:ポール・ニューマン

    * 奇跡の人 The Miracle Worker (1962)
    * 逃亡地帯 -The Chase (1966)
    * 俺たちに明日はない Bonnie and Clyde (1967)
    * アリスのレストラン ALICE'S RESTAURANT (1969)
    * 小さな巨人 Little Big Man (1970)
    * 時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日 Visions of Eight (1973)
    * ナイトムーブス Night Moves (1975)
    * ミズーリ・ブレイク -The Missouri Breaks (1976)
    * フォー・フレンズ/4つの青春 FOUR FRIENDS (1981)
    * ターゲット TARGET (1985)
    * 冬の嵐 DEAD OF WINTER (1987)
    * ペン&テラーの 死ぬのはボクらだ!? PENN & TELLER GET KILLED (1989)未公開
    * ロー&オーダー LAW & ORDER (1990〜)TV作品
    * 愛のポートレイト/旅立ちの季節 THE PORTRAIT (1993)TV作品
    * キング・オブ・フィルム/巨匠たちの60秒 LUMIERE & COMPANY/LUMIERE ET COMPAGNIE (1995)未公開
    * INSIDE INSIDE (1996)未公開

こうやってみると私が観ているのはミュンヘン・オリンピックの記録映画である「時よ止まれ、君は美しい」までである。80年代までのキャリアの人なのだろうが、私の中では完全に70年代で終わっている監督ということになる。
最も印象に残っている映画は「奇跡の人」と「俺たちに明日はない」の2本だ。「奇跡の人」は確か舞台の演出もこの人がやっていたというのを何かで読んだ覚えがある。アン・バンクロフトパティ・デュークが凄まじい演技合戦をする映画という印象。アーサー・ペンは舞台をそのままスクリーンに移したような骨太の演出をした。いい映画だったが、その分映画的文法に欠ける恨みもないではなかった。
そして「俺たちに明日はない」である。公開は67年だが、私が観たのは70年代のどこかで。たぶんリバイバル上映されていたのだろう。この映画の評価はある意味定まっていたし、評判を見聞きしていた。ニューシネマが映画の地平を新しく切り開いていったみたいな評論が数多ある中で、この映画を観ないことにはすべてが始まらないみたいなことも言われていた。いっぱしの映画少年をきどっていた時分だったし、たぶん意気込んで観にいったのだろう。
映画は衝撃的だった。ラスト87発の銃弾に撃ち抜かれる二人。死のバレイと称されるシーンとその後唐突に終了する。その後しばらくの間席を立つこともできないくらいだった。
明日に向かって撃て」と「俺たちに明日はない」の2本は私にとってニューシネマの代表作であるとともに長くベストな映画、大好きな映画として10指に数え上げられることになった。
しかし年齢とともに昔観て感動した映画を観ることができなくなってきた。なぜなら昔のような感動が得られなくなってしまったから。若い時の感性を失ってしまったともいえるだろう。多感で青臭い、妙に勘違いしていそうな感覚がなくなったともいえるのだろう。ような大人になった、おっさんになったということだ。
30代をゆうに過ぎてからというもの、10代に観て感動、感激した映画をビデオにダビングしたりしてずいぶんと観返してみたものだ。そしてその度にけっこうな割合で幻滅したりしたものだ。若い時分にえらく感動した映画が割と普通だったり、あるいはなんでこんなちんけな映画を嬉しがって観たのだろうみたいなことを思ったり。
そして一番気に食わないのが、名画というべき作品を感動することもできなくなってしまった、しょうもないおっさんずれした時分がいるということなのだ。
例えば「いちご白書」は絶対に楽しめなさそうだ。「ペーパー・チェイス」だの「グリニッジヴィレッジの青春」とかも難しいだろう。そうなるとDVDは持っているのだが、観るのが怖い映画というのがいつの間にか増えてきてしまった。端的にいえば、「思い出の夏」である。私はあの映画を今観て、最初に観たときのような感動を覚えることができるかどうか。なにやら大変不安なのである。
実は「俺たちに明日はない」もそんな映画の一つになっていた。もってはいるのだが、ここ20年くらい一度も観ていないのである。コレクションはビデオからDVDに代わったけれどずっと観ないままだった。
しかしアーサー・ペンの追悼ということもあり観てみることにした。そして割と普通に観れてしまった。全体としてはさすがに60年代の映画である。クラシックな趣が漂っている。ウォーレン・ビーティもけっしてにやけることもなく、繊細さとふてぶてしさを併せ持ったクライド役を熱演している。脇を固めるジーン・ハックマン、マイケル・J・ポラードもいい。エステル・パーソンズもさすがにオスカーを取っただけのことはある。今まで気づきもしなかったのだが、チョイ役で若き日のジーン・ワイルダーなんかも出ている。
そしてそしてだ、フェイ・ダナウェイの美しいこと。冒頭の彼女のアップや下着姿はなんとも官能的だ。こんなに綺麗な女優さんだったとは。そして映画の全編に渡って彼女の美しさは際立っていた。
ただし、彼女の魅力はたぶんティーン・エイジャーにはわからないのかもしれないなとも思う。これは大人に、おっさんになったからこそ気づく、たぶんそういう部分なのだろう。こういうのも映画の良さである。年をとってから観直してみると別の魅力を感じる。そういう映画もあるのであると。
映画が好き、これからいろいろと映画を観ていこうという若い人にもこの映画はお勧めだ。40年近く前に多くの人々に衝撃を与えた映画である。勉強だと思って観てみるといい。そしてそれ以上に、私と同世代、あるいはそれ以上の方で、10代、20代の時にこの映画を観ている方、もう一度観て欲しいとも思う。けっこう余裕を持って楽しめるのではとも思う。
とりあえず私はというと、たまにというか時々はこうやって昔の映画を観直していこうとも思う。う〜ん残念みたいな感想を覚えたり、若い時分と同じく感動したり、あるいは別の愉しみを感じたり。「いやあ、映画って本当にいいもんですね・・・」by水野晴朗みたいな感じですかね。

俺たちに明日はない [DVD]

俺たちに明日はない [DVD]

  • 発売日: 2010/04/21
  • メディア: DVD
本棚を探してみたら劇場で観たときに買ったプログラムなんかも出てきた。懐かしいのでアップしちゃう。

アーサー・ペンさん、冥福を祈ります。