『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』

この本(『もしドラ〜』)のことは、発売当時からずっと気になっていた。そしてかなり売れるだろうとも思った。会社の同僚とかにも、これはミリオンいくかもみたいなことを話していた。案の定、アマゾン100位以内を半年以上ずっとキープし続けていて、7月の後半くらいには100万部を超えた。
高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読み、そのノウハウを野球部の運営に活かしていくというお話である。あまりにも荒唐無稽な内容、しかも表紙は萌え系の可愛い女子高生のイラスト。いわゆる一つの企画モノである。
かなり以前に会社の同僚から借りて読み始めたのだが、これがもういっこうに進まない。文章がベタだし、ストーリーが正直しんどい。お話の展開と引用されるドラッカーのテーゼみたいなものとの乖離もすごいことすごいこと。
本を貸してくれた同僚も、「これはちょっとしんどすぎる。とても無理」ということだった。私もまた途中でなんどか放り出し、断念しようかとも思った。なんていうか我慢して読み続ければ、たぶん1〜2日で読めそうな内容なのにである。
作者の文章力の稚拙さはこの本を評した多くの人があげている。いや実際しんどい。中高生の作文レベルに毛が生えたような文章だと思える。
そのへんを含めて、この本へのマイナスな書評の代表選手はたぶん週間朝日のこれあたりだろうか。
http://book.asahi.com/aisare/TKY201002150249.html
しかしマイナスな部分を様々に抱えつつも、あえてこの本を読みきったのはというと、基本的に私はこの本に対して徹底的に肯定的だからだ。
本書はドラッカーの『マネジメント』を発行しているダイヤモンド社が出版している。この出版社にとってはロングセラーである『マネジメント』にもう一度インパクトある販促をかける、たぶんそのことだけのために出版した本なんだと思う。そこそこ売れて、たぶん3〜5万部いければ御の字。そのお陰で最近重版のペースが少し落ち着いてきている『マネジメント』がいささかでも動いてくれればそれでいいと。たぶんに『もしドラ〜』の出版のモチベーションなど、そんなところだろうと推測する。
そういう意味では初期の目的はすぐに達成した。いやそれどころか本書がミリオンになるのと同時に本家『マネジメント』も十数万部、あるいはそれ以上の売れ行きを見せているかもしれないのだ。ひょっとすると過去10年分くらいの刷り数をここ半年で記録した可能性だってありそうだ。
もしドラ〜』の刊行には、ロングセラーをもつ出版社の販促のための新しいノウハウがありそうだ。普通の解説書では駄目、意外な切り口からロングセラー書を引用、活用するという力業が必要だ。
もしドラ〜』の著者には文章力はないけれど、企画力だけは抜群のものがあると感じる。聞けば秋元康の弟子筋にあたるともいう。主人公の女子高生はAKB48のメンバーの一人をイメージしたというようなことが後書きに書いてあったようにも思う。
ミリオンになっただけに、ひょっとするとそのAKB48の誰かを主人公にしたドラマ化、映画化あたりもあるかもしれない。いやただの冗談ではないかもしれないぞ。
そんでもってこの本の正直な感想はというと、この本の目的である本家ドラッカーの『マネジメント』をとりあえず読んでみようかと思ったりもした。大いなる勘違いなのだが、もう少しのところでアマゾンで購入クリックしそうだった。著者、出版社の思惑のとおりになりそうだったわけだ。と、そのくらい『マネジメント』のことをある意味うまく引用している部分もあるにはあるのである。
「顧客」についてなどというと、つい自分の会社の「顧客」とはなんだろうなどと、年甲斐もなく考えたりもしてしまうわけだ。そういう意味ではけっこうはまってしまったりもしたのかもしれない。
とりあえず読み終わった本書は、会社の若い者に強制的に貸し出した。酒飲んで、たまには経営とかのことも考えてみてみろと、いっちょう前に説教オヤジして渡した。相手にとってはエライ迷惑なことだったろう。まあ若い衆が読むかどうかはわからないが、それはそれでいいと。
そしてだ、残る課題は本家ドラッカーの『マネジメント』を、とりあえずエッセンシャル版あたりを買ってみるべきかどうかということだ。う〜む、まあ経営者になってから考えるとするか。というかそれはありえない話だから、たぶん私がドラッカーを読むことはなさそうにも思う。