私の中のあなた

私の中のあなた [DVD]
TSUTAYAで新作ビデオとしてレンタルされていたので、早速借りてきた。劇場公開の時から気になっていた映画だ。キャメロン・ディアスが好演しているとか映画の出来がかなり良いと評判になっていた。それでいてなんとなく見逃してしまった。興収はどうだったのだろう、少なくともワカバのシネプレックスでは一月とかかっていなかったようにも思うが。
実際に観たのはたぶん先週の金曜日の深夜だったと思う。良い映画だったと思う。映画に満足するとそのままDVDで好きなシーンを観返すことがある。今回もそうだった。しみじみとさせられる。思わずほとんどもう一度観返してしまった。
メロドラマ、ヒューマンドラマをいつも一ひねりしてみせるニック・カサベテスがまたまたやってくれた。しかもそのひねりは監督の意図通りで、ベタで泣きのドラマを一段高いところに引き上げてくれている。そんな印象を持った。
不治の病にかかった少女とその家族を巡るお話。余命後わずかの娘と彼女に献身的に尽くす家族たち。家族の愛に包まれながらも、けっして我侭いうでもなく、逆に家族のことを思いやる姉と、姉の面倒を一生懸命にみている妹。
可愛くてうまい子役もでている。もうベタベタ満載である。それが嫌味にならないさまざまな工夫が施されている映画だ。もともとベストセラー小説を映画化したものらしいのだが、本来的にはどことなくSFめいた作品だ。不治の病に冒された姉の延命のためのドナーとして遺伝子操作で生まれてきた妹。彼女は臍帯血、輸血、骨髄移植と姉のために肉体を切り刻んで提供してきた。13歳になった彼女は姉のための腎臓移植を拒み、両親を相手に訴訟を起こす。その本当の理由は?
もうこの設定自体が現実的にはありえない完全なフィクションである。しかし細部の緻密でリアルなエピソード、描写の積み重ねにより、ありえないお話がきわめてリアルに伝わってくる。もうこの時点でこの映画が成功していると思わせる。
泣かせるエピソードも満載だ。人生のほとんどを病院で、治療を受けることで過ごしている姉の短い人生の中でも小さな初恋がある。同じ病をもつ少年との淡い、それでいてお互いの命をかけた濃密な交際。初めての本格的なデート、病院で開催されたパーティの夜、二人が結ばれる(病に蝕まれた二人であるから、たぶん精神的に)。その数日後に少年は死んでしまう。切ない、切ないお話だ。こういう泣かせが所が満載の映画なのである。
それでいてどこか乾いた部分も併せ持った部分がある。なんだろう、兄弟愛の確かさみたいなところだろうか。子どもたちは親が思っている以上に、お互いを尊重し合い、愛し合い、それでいてクールな関係性を維持しあっている。親子の情愛とは別のベクトルがあるのだ。それがうまく描かれている。だからこの映画は題材の割りには実はベタベタになっていない。そこが成功している部分なんだろうと思った。
試みにこの映画を翌日もう一度観てみた(よっぽど気に入ったのかもしれない)。それからこの監督のヒット作である前々作「きみに読む物語」を続けて観てみた。好き嫌いとかはあるかもしれないけど、やはり「私の中のあなた」のほうがだいぶ出来が良いように思った。難病モノで子役バリバリの泣かせ映画という表面上の部分を差し引いても、やはりこっちのほうが上だ。それはやっぱりある種のドライな部分だ。前作はどことなく大人のお伽噺という風な作りだったが、今回の作品はありえない設定による、リアルでありそうな家族のドラマになっていると思ったから。
子役はみんな完璧である。不治の病の姉を演じたソフィア・ヴァジリーヴァも素晴らしい。本当に体当たりの演技である。あまり美人タイプではないのだけど、かえってそれが始めてのパーティに行くときにドレスアップしたときの初々しい美しさとなっていた。父親に私きれいと問いかけてから、彼氏とでかけるシーン、あれは娘に持つ父親にはおきて破りというか、ルール違反というか、駄目だよっていう感じ。絶対泣きが入るから。
そしてなによりも主役的かつ狂言回し、ドナー役を拒否する妹役、アビゲイル・ブレスリンは完璧な子役というか、もはや完璧な女優さんだと思う。「リトル・ミス・サンシャイン」のお腹ぷっくりのオシャマさんがこんなに綺麗になって、クールな抑えた演技が出来ちゃう女優さんになっていたなんて。しかもまだ13歳だ。この人の表情、特に眼差しはなんか本当にクールな感じ、へたをするとクールを通り越して空虚なものさえ感じさせる。大人になったらどんな女優になるのか楽しみな部分だな。
ネットでググるとブロードウェイで「奇跡の人」をやるという話もあるのだとか。彼女のヘレン・ケラーも観てみたいな。出来れば映画としてリメイクされないだろうか。そうなるとアン・バンクロフトの代わりを誰がやるのか。そんな想像をしてみたくなってしまう。
他にもキャメロン・ディアスの好演とか、弁護士役のアレック・ボールドウィン、判事役のジョン・キューザックなど脇を固めるベテランがみんな良い味を出している。そういうところも映画の成功の一つなんだろう。
とにかく良い映画だった。長く、何度もきっと観ていく映画だと思う。