映画三昧の日々

昨日は久々家でのんびりとレンタルもののDVDを観て過ごした。前日比較的早寝したので朝早くから観始めてほとんど続けざまに三本も観てしまった。途中で家族の食事作ったりとかあるにはあったけど、まあそれ以外はほとんど自室で映画観ていました。
最初に観たのは「クローバーフィールド」。
クローバーフィールド/HAKAISHA スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
私が借りたものじゃありません。TUTAYAに家族で出かけた時に妻がなにか面白いものをというので、じゃあちょい前新作系でこれなんかどう的に勧めてみたもの。怪獣映画の類なんだが、はっきりいってB級です。なにかがマンハッタンを襲って、それに巻き込まれた主人公たちが逃げたり、恋人を助けに行ったりする。それをホームビデオで記録しているというような設定。ハンディカムで撮っているという設定のため、とにかく映像が揺れる。それを面白いと思うかどうか、それに尽きるな。
マンハッタンを襲うその何かなんだが、なんとも訳のわからない化け物風。なんとなくエイリアン系である。アメリカ版ゴジラもそうだったけど、なんであちら風に料理されると怪獣はああいうひねたタイプになるんだろうかなどと思う。やっぱり怪獣たるもの中に人が入って下半身が安定してなくちゃ。やっぱり本家ゴジラでないとなどと一人でぶつぶつ言いながら観てしまった。
しかしいきなりマンハッタンに襲い掛かる怪物。その存在は映画の中では小出しにちょっとづつしか現れない。同時に劇中の人々もその実態をとらえることなく、ただただ逃げ回るという風なのである。この実体を認識できない故の恐怖というのもすごくよくわかる。スリラー系の基本といえばそれまでかな。「ジョーズ」なんかだってその技法でしょう。
でもそれ以上、なにか訳のわからないものにニューヨーク、マンハッタンが破壊されていくというシチュエーション。これはたぶん9.11を寓意しているんだろう。あるいはあれに触発されたとでもいうべきか。そのなにかに襲撃されてビルとかが破壊され、逃げ惑う人々という映像は、もろに9.11のニュース映像の雰囲気をもっていた。アメリカ人にとっては、あの同時多発テロはある意味、怪獣に襲撃されたマンハッタンみたいなものだったのかもしれないね。
ちなみに怪物のお姿はこういうもの。気持ち悪いね。

次に観たのはコーエン兄弟の「ノーカントリー」。
ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
キネ旬の2008年外国映画の1位。アカデミー賞作品賞に輝く作品である。ということで一応観てみたのだけど、基本的にコーエン兄弟はなんとなく苦手。血生臭い、暴力的なイメージがなんていうのだろう、体質的にしっくりこない。同じバイオレンスでもサム・ペキンパーとかはけっこう好きだったのだが。とはいえそれも20代の頃のことだから、今はちょっと駄目かもしれないな。ここ5年くらいでペキンパーというと「砂漠の流れ者」とか「ビリー・ザ・キッド」くらいしか観返していないか。「ガルシアの首」「ワイルドバンチ」あたりは持ってはいるけどなんか観る気になれない。
話は戻すがコーエン兄弟の映画には一応ユーモア感覚とかもあるにはあるとは思うけど、そのブラックな雰囲気もまたなんとも許容できない感じである。好きになれない芸風とでもいうのだろうか。同じように暴力、殺伐を特異とする北野武もやっぱり苦手なんだが、どことなく同質なものがあるのかもしれないな。
この映画についての印象批評としては、まず映像はけっこう美しい。構図とかに凝った様式美みたいなものを思わせる。殺伐とした異常な殺し屋の登場、次々と突発的とも思えるほど人が殺される。それもほとんど無関係な人々が。そういう偶然性と突然訪れる殺人、そういう意味性に乏しい究極の暴力の連鎖は、同じコーエン兄弟の「ファーゴ」と似通っているかなとも思った。あの映画の中では出産間近の妊婦である警察署長役で出ていたフランシス・マクドーマンドがすごく良かったかな。ああいう役柄の設定自体がなんというかコエーン兄弟特有のユーモア感覚なんだろう。
次に俳優ではなんといっても狂気の殺し屋アントン・シガーを演じたハビエル・バルデムに尽きるかな。あの異形な風貌。関係した人間を次々と脈絡なく殺していく。凄いインパクトである。忘れたくても忘れられない役柄、俳優さんである。この役でオスカー助演男優賞を受賞したらしいけど、納得できる。
バルデムに追跡され結局最後はあっけなく殺されてしまう男を演じたジョシュ・ブローリン。基本的にはハンサム系のはずなのだが、今回の役柄は中西部のマッチョ系の男である。なんか髪型といい髭といい、往年のチャールズ・ブロンソンを彷彿とさせるようなイメージである。ブローリンという名前になんとなく引っかかりがあったので調べてみると、なんと彼はジェームズ・ブローリンの息子さんであるという。ジェームズ・ブローリン、「カーズ」とか「カプリコン1」とかで懐かしい俳優さんだ。なんていうのだろう、真性B級二枚目俳優さんみたいな存在だったかな。
そして主役の老保安官を演じるトミー・リー・ジョーンズ。日本ではボスのCMでユーモラスな宇宙人をやっていたりするけど、やっぱり名優ですな。味があるというか渋味がきいているというか、ロートルな保安官を見事に演じている。これも彼の長いキャリアの中でも代表作として記憶されるような役柄だったかもしれない。
とかなんとか、まあそれなりに見応えのある名画であることは否定できない映画ではある。それでもやっぱりコーエン兄弟は苦手だと思うけど。
最後に午後になってみたのは「クライマーズ・ハイ」。
クライマーズ・ハイ デラックス・コレクターズ・エディション [DVD]
原作を数年前に読んでいる。傑作ミステリーだとは思った。それをどんな風に映画化するのかと興味もあった映画である。なかなかにうまくまとまっていた。あまり予備知識もなく観たのだが監督は原田真人とのこと。この人の「突入せよ! あさま山荘事件」は、私にとってはここ10年くらいのスパンでの邦画のベストワンで、それこそ繰り返し観続けている。なんていうのだろう基本に忠実な演出とでもいうのだろうか、とてもベーシックなスタイルの人だと思っている。
私は原田真人を映画監督としてというよりも映画評論家として最初に知ったのだと思う。確かジョン・フォードとかにインタビューした本を20代の頃に読んだ記憶がある。映画好き、映画評論家が映画を作ってしまったという触れ込みのデビュー作「インディアン・サマー」は映画としては今ひとつだったけど、映画狂いともいうべき人々の心根をくすぐるような、そんな映画だったと記憶している。あの映画の中で根っからの映画好き、とにかく映画を観ることに全人生を捧げたような男を演じた川谷拓三のことが忘れられない。彼曰く映画館では一番前の席に座る。スクリーンと自分の前には誰も座らせないがモットーの男なのである。「最前列の左側から○○番目の席は常に俺の席である」というセリフはなんとなく当時映画青年であった私には大いに共鳴する部分もあり、ある時期は私もそれを実践したものだった。
あの映画はなんていうのだろう、スクリーンの向こう側とこちら側との共同幻想みたいなものがテーマだったんかいなと思う部分もある。
話はそれたが「クライマーズ・ハイ」である。けっこう面白かったし楽しめた。原田真人の小気味良い演出。堤真一の演技力。この二本立てに引っ張りきった映画という印象。後原田映画では無名の名優たちが好演している。たぶんみな知る人ぞ知る、演劇系の立派な役者さんたちなんだろうけど、彼等がきっちり脇を固めることで映画が締まっているという感じがする。